男性トイレでは冷視され、女性用に入るわけにもいかず…「我慢が積み重なるときつい」 性的少数者が望む解決策は
沖縄タイムス+プラス / 2023年8月21日 7時0分
経済産業省に勤めるトランスジェンダー女性の職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されているのは不当だとして国を訴えた裁判で、最高裁は7月にトイレの使用制限を認めた国の対応は違法だとする判決を言い渡しました。生まれながらに割り当てられた性別とジェンダーアイデンティティが異なる性同一性障がいやトランスジェンダーの人たちのトイレ利用などを巡っては、さまざまな議論が起きています。どんな対応があれば、誰もが安心・安全に日常生活を送れるのでしょうか。沖縄県内の当事者に聞きました。(デジタル編集部・新垣綾子、学芸部・勝浦大輔)
※識者の見方を紹介した記事はこちら。
男性として生まれ、性別適合手術を経て戸籍を変えたMTF(Male to Female)の女性(42)は戸籍の性別である女性トイレ、もしくは多目的(誰でも)トイレを利用している。「戸籍の性別を女性に変更した当事者であっても、公共施設などでは、多目的(誰でも)トイレを使用したり、罪悪感を抱きながら女性トイレを利用していたりする当事者は少なくない」と話す。
●職場でMTF公表、トイレは「他職員とは別」に
自身も女性トイレの利用者が多い時は、なるべく多目的トイレを使用するという。「特に(生まれた体が男性である)MTF当事者は盗撮や性犯罪者と間違われるなどのトラブルを懸念するし、利用者の女性も女性スペースに男性のような見た目の人が入ってくるのは怖いはずだ」と気を配っての対応だ。
過去には辛い経験もした。以前勤めていた職場は、男性として入職。自身が性同一性障がいであることをカミングアウトした後、戸籍上の性別も女性に変えた。すると、トイレは他の職員が使わない特定の場所の利用に限定され、更衣室は物置をあてがわれた。嫌な思いはしたが「職場も、他の職員が安心して使えるような対応が必要になる。仕方がない対応で、雇ってくれるだけありがたかった」と心境を明かした。
性同一性障がい、トランスジェンダーのトイレ利用について「利用者みんなが安心する根拠があるといいのではないか」と考える。それは障がいの診断を受けたり、医師に相談した上で根拠を示す診断書をもらったりすること。経産省でトイレ利用を巡り訴訟を起こしたトランスジェンダー女性職員も性同一性障がいの診断を受け、性衝動に基づく性暴力の可能性は低いとする医師の診断があったことを例に挙げた。
職場や学校など人間関係が限定した場所では「根拠を持って周囲の理解を得て対応するのがベター」、不特定多数が利用する公共の場では「戸籍の性別にのっとったトイレ、もしくは多目的トイレを使うべきではないか」と提案した。
一方で、医学的見地に基づく「性同一性障がい」と自認が前提の「トランスジェンダー」がひとくくりに論じられることに違和感もある。「トランスジェンダー当事者には、ホルモン治療や外科的手術を望まない人もいれば、病気扱い自体を拒む人もいる。性同一性障がいは『そのままの体では耐えられない』と強く苦しむ疾患で、日本精神神経学会ガイドラインに沿った、医療的なケアが必要になる。双方を同じように語るのは難しいのではないか」と話した。
●心を突き刺す「侮蔑的な目」
沖縄市に住むみーちゃん(33)は、体は男性だが、心は男女どちらにも当てはまらないと自認する「Xジェンダー」だ。
心の性は「不定期に男女の間を揺れ動く」と言い、大半の時間で女性寄りになる。ワンピースやスカートを身に着けることが多く、華やかなメークも大好きだ。
性的マイノリティーのカップルとして、男女どちらも恋愛対象となるバイセクシュアルのパートナー安里ミムさん(30)と一緒に、タレント活動や講話などに取り組む。今年2月には2人ともにウエディングドレス姿の結婚披露宴を開き、たくさんの祝福を受けた。
「でも、いまだにトイレでは『キモい』って普通に言われますよ」。誰もが自分らしく生きるというメッセージを届ける活動が少しずつ広がり、応援者も増えた。だが、戸惑いが消えないままなのがトイレの問題だ。「体は男性なので女性用は使えない。一方で男性用に入ると、びっくりされたり、侮蔑的な目で見られたりする」と顔を曇らせる。
大型の公共施設やショッピングセンターでは多機能トイレで済ませるが、小規模な店などには備えられていないことが多い。建物に入ると、どこにどんなトイレがあるのか目を配り、男女別々のトイレしかない場合は、誰もいないタイミングをじっと見計らって男性用トイレに入るか、用を足したくなる前にその場を離れると明かす。
「常に人に嫌な思いをさせたくないというアンテナが張っている感じ。1回1回は小さな我慢でも、積み重なるときついですよ」
どんな解決策があるのだろうか。「現実的なのは施設内のトイレの数にかかわらず、必ず1カ所は多機能・多目的トイレを備えることではないですか」と投げかける。「それなら、その施設の管理者次第ですぐにでもできると思う。トイレに限らず、身近に何らかの困り事を抱えている人がいるかもしれない、と想像してほしい」
トランスジェンダー女性が女性用トイレを使うことについて、トランス女性を装った男性による性犯罪を誘発する、との懸念もある。「うーん。なぜ、そんな話になるのだろう。そもそも犯罪と、性的マイノリティーのトイレの問題は別もので、みんなで犯罪を防ぐ対策を考えていけばいいのではないか」と訴えた。
●「望むトイレ使えず、就職断念」の記述も
生まれながらの性と自認する性が一致しない性同一性障がいやトランスジェンダーの人たちのトイレ利用について、沖縄タイムス社が当事者を対象にウェブアンケートを実施したところ、回答した27人のうち、8割を超える22人が「困ったことがあった」と答えた。望む形でのトイレ利用のため「カミングアウトが必要だった」と答えた人は約4割の12人だった。
(性同一性障がい、トランスジェンダーの当事者向け本紙アンケートより)
アンケートは、沖縄県内の当事者団体の協力を得て、9~13日の5日間に10~60代の27人(県内25人、県外2人)から回答を得た。
自認する性と違う性のトイレを利用する人はFTM18人中6人、MTF8人中2人。自認する性のトイレを利用しつつ多機能(誰でも)トイレと併用していえるとした人はFTM1人、MTF2人だった。自認する性が男女どちらでもない、どちらとも言い切れないXジェンダー1人は多機能トイレを利用すると回答した。カミングアウトが必要だった場所は職場や学校が主で「就職の面接」との回答もあった。
●「多機能」「誰でも」トイレ増やして
本紙ウェブアンケートの自由記述では、誰もが利用しやすいトイレのあり方について「性別に関係なく使える『多機能(誰でも)トイレ』を増やす」「職場や学校で理解を得る」などの意見が寄せられた一方、障がい者の人も使うトイレだと「気を使ったり、逆に目立ったりする」「治療や手術を施すことで、望む性別のトイレに入ればいい」などの声が上がった。性自認を隠して生活している当事者もおり、設備や周囲の配慮の可否を巡って複雑な心境が読み取れた。
女性の体で生まれたが男性として生きる県内の20代FTM(トランス男性)は、自分の外見が男性に見えるか判断がつかず、体の性別に合わせて女性トイレを利用するが「周りに不安な思いをさせていたら申し訳ないと考え、利用をためらう」と困った経験を記述。
県内の20代のMTF(トランス女性)は「男性トイレの利用が苦痛だった」、別の40代MTFは「戸籍の性は女性だが、就職活動の際に職場では男性用トイレの使用しか認められず、何度も就職を断念した」と答えた。
体は男性で、心は女性のトランスジェンダー女性が女性用トイレを使用することについては、トランス女性を自称した男性による性犯罪を誘発する、と抵抗感を示す女性たちもいる。
これに対して40代のFTM(トランス男性)は「トランスジェンダーを過度に恐れるプロパガンダが逆に『こうすれば犯罪ができる』という誤ったメッセージになる」と強調。体は女性の50代Xジェンダーは「真に性別違和で悩んでいる人は周りの目を気にしている。犯罪者と一緒にされたくない」と切実に訴えた。
「不安を完全に取りのぞくのは無理」(20代FTM)、「今は過渡期。当事者もバランスを取りながら要望を伝えていく必要がある」(40代FTM)との声もあった。
50代のMTF(トランス女性)は過去を振り返り「無理して男性を演じていた。周囲に本当の私を見せられず、心を許せる友人がほとんどおらず辛かった」と記述。「性自認と違う性別のトイレの利用は、罪悪感や違和感、見たくないものを見てしまう残念感があった。トイレは排泄行為だけでなく、一息付いたりコミュニケーションを取ったりする場所。望むトイレを使いたかった」とし、カミングアウトした理由の一つがトイレだったと明かした。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
男性ものの下着を身につけるのが生理的に耐えられない…自分は“普通の男性”だと思ってたのに
女子SPA! / 2023年11月27日 15時46分
-
自民片山氏「国民は不安」 性自認巡り、差別助長も
共同通信 / 2023年11月20日 22時37分
-
アイエスエフネットは職場におけるLGBTQIAに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標2023」において、4年連続最高評価のゴールドを受賞いたしました
PR TIMES / 2023年11月10日 17時40分
-
大阪大学が「PRIDE指標2023」で最高位「ゴールド」を5年連続受賞 -- 5年連続受賞は全国の大学で唯一
Digital PR Platform / 2023年11月8日 20時5分
-
「PRIDE指標2023」において「シルバー」認定を取得 グループ全体で取り組みを推進、ベネッセHDに加え子会社2社が「ゴールド」認定取得
PR TIMES / 2023年11月7日 19時45分
ランキング
-
1安倍派議員の秘書らを任意聴取 特捜部、「裏金」数千万円受領も
共同通信 / 2023年12月5日 22時18分
-
2「首相と自民党本部で面会した」 旧統一教会側、写真報道も
共同通信 / 2023年12月5日 19時48分
-
3「1階が燃えている。3階にいる」と119番通報 工場で火災 焼け跡から1人の遺体発見 経営者の男性か
CBCテレビ / 2023年12月5日 22時26分
-
4今年ならではの“訳あり”返礼品がお得 ふるさと納税「冬の攻略法」【Nスタ解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2023年12月4日 21時42分
-
5安倍派議員「裏金」プール ノルマ超分、派閥に納めず
共同通信 / 2023年12月5日 19時17分
記事ミッション中・・・
記事を最後まで読む

記事ミッション中・・・
記事を最後まで読む

エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
