いきものがかりのヒットを探る「臼井孝のヒット曲探検隊 ~アーティスト別 ベストヒット20」

OKMusic / 2018年9月13日 18時0分

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、第5回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。

■地元を愛し、地元に愛された 神奈川県出身の3人組

いきものがかりは神奈川県出身の女性ボーカル+2人の男性が演奏するというスタイルで、1999年にバンドを結成。これは初期のドリカムや同じく初期のEvery Little Thingと同一の構成で、女性ボーカルの魅力とバンドの魅力を同時に伝えうる最少人数ながら最大限の効果を発揮すると言えるかもしれない。

その後、地元の厚木や海老名での路上LIVEやインディーズでのCD発売の実績を重ね、2006年3月15日にシングル「SAKURA」でメジャーデビュー。ちなみに、インディーズ時代から支えてきた厚木のCDショップ「TAHARA」はその後「じょいふるミュージック厚木」として、彼らをずっと応援し続けてきて、なんとインディーズ時代を含め、これまで発売された全CDが陳列されていた。残念ながら、2017年12月に閉店してしまったが、遠方からはるばる来店するファンもいるほど一つのコミュニティーを形成していたのは、やはりそれだけ彼らが地元を愛し、地元に愛された存在だったからだろう。

2016年に発売されたベスト盤『超いきものばかり』ダイジェストムービー

彼らは路上で立ち止まってもらうべく生まれた技なのか、他のバンドとは一線を画する親しみやすいメロディーや共感しやすい歌詞、何より吉岡聖恵のエモーショナルな和モノボーカル(洋楽めいたフェイクや発音を多用しない)により、幅広いリスナーからも支持を得て、2016年までNHK紅白歌合戦は既に9年連続出場を果たした。これは若手バンドとしては圧倒的な出場回数であり、彼らが国民的アーティストであるという一つの証であろう。

■幅広いファンから支持されたのは “昭和”を敬愛する音楽性

また、バンドスタイルでありながら、過激なメッセージやパンキッシュな音楽性とは一線を画しており、彼らほどNHKが似合うアーティストはいないんじゃないかと思う。実際、LIVEの観客を見ると、彼らの父母世代の方から、彼らと同世代、さらにその世代の子どもたちまで幅広く楽しんでいることに驚く。そう、デビュー5年そこそこの段階から、既にサザンオールスターズやDREAMS COME TRUE級の幅広いファン層を掴んでいたのだ。

ちなみに、彼らは1stアルバム『桜咲く街物語』(2007年3月7日発売)までの5枚のシングルのカップリングで、それぞれ「卒業写真」「木綿のハンカチーフ」「GET CRAZY!」「風に吹かれて」「春一番」といった1970年代~1980年代の名曲カバーを収録している。こうした試みも彼らの“昭和色”をアピールするきっかけとなっただろう。

■多数のヒットを手がけるも 2017年1月に活動を休止、 以降は各メンバーがソロで活躍

2016年までに32枚のシングルを発表し、その多くがヒットしてきたが、2017年1月5日に“放牧宣言”と称して活動休止を発表。現在のところ解散は否定しているものの休止期間は未定だ。

現在のところ最新シングルとなっている2016年の「ラストシーン」

そして、2017年以降、各メンバーはソロ活動を開始。リーダーの水野良樹は関ジャニ∞や一青窈、山本彩、大原櫻子、坂本真綾、そして石川さゆりや和田アキ子など幅広く楽曲を提供。また、『関ジャム完全燃SHOW』ではマニアックな音楽解説やプレゼン担当として、レギュラー陣にイジられながらも愛されキャラで出演している。水野と同級生の山下穂尊は、テレビやラジオのレギュラー番組や音楽イベントへの出演、更にはエッセイ集『いつでも心は放牧中』を出版。相変わらずマイペースな所も彼らしい。

■吉岡聖恵は2018年10月に ソロアルバムのカバー集を発表

そして、リードボーカルの吉岡聖恵は2018年春より「夢で逢えたら」「糸」などのカバー曲を音楽配信限定でリリースし始め、10月24日はソロとして初のアルバムとなるカバー集『うたいろ』を発売。前述の2曲の他にも、米津玄師の「アイネクライネ」のような新しいヒット曲から南沙織の「哀しい妖精」や堺正章の「さらば恋人」といった昭和歌謡まで、自ら幅広くセレクト。ボーカリストとしてより多彩な部分を見せてくれるのかとても楽しみだ。

ここでは、メジャーデビューから2016年までの11年の間に、良質なJ-POPを求めて彼らがどのようなヒット曲を飛ばしてきたのか、そしてその中で何が上位となるのかをここで振り返ってみたい。

■総合1位は、 全部門制覇の「ありがとう」、 水谷千重子バージョンもCD化希望!

総合1位は2010年発売の18thシングルで、愛する人への感謝をこめたミディアムバラード「ありがとう」。シングル、配信、カラオケ、いずれもダントツ1位で、これは大方の予想通りだろう。NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』主題歌に起用され、実際、前述のようにLIVEのファン層が大きく広がったのも、また同年11月に発売された2枚組のベストアルバム『いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~』が140万枚を超える初のミリオンセラーとなったのも、この「ありがとう」効果が大きいはずだ。なにしろ、CDシングルが1年以上にわたってTOP200入りしているのだから。

また、音楽配信でも年間のレコチョクランキングで、2010年15位、2011年14位(前年よりもアップしているのは、紅白歌合戦をはじめとする年末年始効果も大きかった証拠)、2012年74位と3年にわたってヒットしており、まさにお化けヒットと言える。

ちなみに、芸人の友近に酷似(?)しているベテラン演歌歌手・水谷千重子のレパートリーとしても、この「ありがとう」は有名。ドヤ顔でコブシを利かせまくっても、その名曲ぶりがわかるので、今後CD化されることを願う。

■総合2位は「YELL」! カップリングの「じょいふる」も TOP10入り

総合2位は2009年発売の15thシングルで、両A面扱いだった「YELL/じょいふる」からCDの加点分より上位となった「YELL」。本作は2009年度のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲(ちなみに前年の課題曲は同じソニーのアンジェラ・アキ「手紙」。後年のYUIやmiwaなどソニーはこの枠に強い)で、「サヨナラは悲しい言葉じゃない」という卒業をテーマにしたエールソングで、翌2010年の春にかけてCDや配信、カラオケでロングヒットした。

もう1曲の「じょいふる」も江崎グリコ「ポッキー」CMソングとして、ポッキーをくるくる回しながらのダンスも話題となり、LIVEでも最高潮に盛り上がるアゲアゲのポップソングとして、75万ダウンロード以上で配信3位、カラオケも6位となり、総合9位とTOP10入りしている。まったく真逆ながら、どちらも彼ららしさを象徴する2曲と言えるだろう。

■CDシングルの大ヒットはないが 週間TOP10ヒットは26作あり

ヒット曲が多い印象の強い彼らだが、実はCDが10万枚を超えたのは「ありがとう」の21.4万枚と、「YELL/じょいふる」の14.1万枚のたったの2作。後述する配信でダウンロードが10万件を超えたものは29作(うち、ミリオンヒットが2作)ということからも、彼らのヒット感を従来のシングルだけでは語れないことが分かるだろう。

但し、シングルの大ヒットは少ない彼らだが、オリコンTOP10シングルはなんと26作もある。つまり、アイドルではないけれど、コレクター的に買い揃えたいというファンは少なくないのだ。これは各作品の初回プレスに封入されている「いきものカード」も後押ししていそうだ。トレーディングカードのような仕様で各作品のメッセージを要約し、ジャケットの別バージョンなど関連する写真が印刷されている。こうした手間暇が施されている点も、彼らの親しみやすさを自然にアピールしてきたのだろう。

ちなみに、2018年3月15日に発売されたLPレコード14枚組『レコー丼~超七色大盛り~』は活動休止中かつ税抜3万円という高額セットにもかかわらず、千セット以上を売り上げ、オリコン週間46位にランクインした。これも、彼らが愛され続けている証だ。当然、こちらにも「いきものカード」は封入されている。

■総合3位はアニメ『NARUTO』から ヒットした「ブルーバード」

総合3位は2008年発売の10thシングル「ブルーバード」。ソニーのタイアップ・レギュラー枠でもあるアニメ『NARUTO』のオープニング曲となったこともヒットの要因だが、半年にわたるTOP200入りはタイアップ期間をゆうに過ぎており、これは《飛翔(はばた)いたら 戻らないと言って》とパワフルに始まる楽曲パワーによるところが大きいだろう。

そう言えば、この歌も「ありがとう」もサビ頭から始まるのが特長的。通常、バンドの楽曲はサビ頭のものが少ない気がするが、そういう歌謡曲っぽい構成も気負いなく出来るのも彼らの魅力。ちなみに、シングル曲の多くはリーダーの水野良樹が担当。稀代のヒットメーカーでありながら、決して成り上がらずに「NHKでは警備員に一般人と間違えられて呼び止められる」など自虐的なエピソードも欠かさない点に、彼の俯瞰できる視点を感じさせる。

■総合4位はデビュー曲にして 名曲の「SAKURA」

総合4位は2006年のメジャーデビュー作「SAKURA」がランクイン。CDでは発売7週目に最高位17位をマークし、その後もTOP200内に31週するロングヒットだが、配信のほうはさらにスローなヒットぶりで、2006年時点は年間66位と10万件クラスのヒットだったのに、毎年、桜の季節になる度に“定番の桜ソング”としてメディアに紹介されては再浮上を繰り返し、累計75万件を超えるヒットに。

当時はNTT「DENPO115」NTT東日本エリアCMソングだったことや、インディーズ時代からの基盤が神奈川地区だったことから、東日本限定のヒットだったが、『ワールド・ベースボール・クラシック』の番組内でCMが流れたこと(というよりも、レコード会社がその後に“野球効果で「SAKURA」が話題”と各スポーツ紙にしっかり仕込んだことが大きいと感じている)や、その後『ミュージックステーション』の新人注目コーナー“Young Guns”で取り上げられたことで一気にお茶の間に広まった。本作の雄大でありつつ儚さを感じさせる曲想は、ボーカル吉岡の特長が最大限に活かされるパターンで、デビュー曲にして既に名曲が誕生しているのも感慨深い。

■総合5位に吉岡のコスプレも話題だった「気まぐれロマンティック」

そして、総合5位には2008年の12thシングル「気まぐれロマンティック」がランクイン。本作は上戸彩が主演のドラマ『セレブと貧乏太郎』の主題歌に起用され、ドラマのコミカルなタッチに合わせて、いきものがかりの楽曲の中でも可愛らしさが前面に出たミディアム調のポップス。これも、女性ファンの多い配信で強かった要因だろう。吉岡がナースやショップの女子店員など様々なコスプレをするミュージックビデオも話題となった。

また、本作はカラオケが4位と強いのもポイント。カラオケでは1位の「ありがとう」、2位の「YELL」と鉄板バラードが並ぶが、3位に「ブルーバード」、4位に「気まぐれロマンティック」、6位に「じょいふる」、更には7位にアニメ『七つの大罪』テーマ曲に起用され、そのアドベンチャー感あふれる曲想ゆえ、アニメファンやスマホゲームファンからも人気の「熱情のスペクトラム」とアッパーな楽曲も多数上位入りしているのも、彼ららしい。

なお、いきものがかりは、ドラマタイアップ曲も多数あるが、ジャニーズ事務所や研音、スターダストプロモーションのように、主演クラスの俳優も主題歌も同じ事務所がガチガチに抱えるといったパターンはさほどない。むしろ、彼らの等身大の楽曲がドラマを華やかにすることが、タイアップ獲得の大きな要因と言えそうだ。

総合7位には2012年の発売の24thシングル「風が吹いている」がランクイン。NHKロンドンオリンピック・パラリンピック放送テーマソングとしてこの年の夏に大量にオンエアされ、また年末のNHK紅白歌合戦では紅組のトリで歌唱されたことで記憶した人も多いだろう。

但し、この歌は水野が気合いを入れ過ぎたのか、8分近い大作バラードで、彼らのモットーとする親しみやすさとはやや異なる路線。しかも、同年末に発売されたバラードベストアルバム『バラー丼』ではオーケストレーションを前面に施した9分を超えるバージョンで、これはさすがにやり過ぎな感じが(メロディーは確かに美しいんだけれど…汗。この辺りから彼らのポップにしたい部分とエッジを利かせたい部分のバランスに迷いが生じてきたような気もする)。

とはいえ、総合1位、2位、7位とNHKがらみの大型タイアップが出揃っており、このNHKとの抜群の相性の良さも彼らの国民的な音楽性を象徴していることだろう。

こうして総合ランキングを見てみると、TOP10の10曲はいずれも2006年から2012年の作品で、ここ4年ほどは彼らの代表曲は出ていなかったことが分かる(そこそこのヒット曲だったのだが、あくまでも代表曲はなかった)。また、オリジナルアルバムでも常に年間TOP50入りするほどのアルバムアーティストでありながら、アルバムからの人気曲がTOP20中には見当たらない。勿論、シングルだけで名曲が大量にあるという表れでもあるのだが、こうしたヒットの閉塞感も、活動休止して更なるステップを目指したいというきっかけになったのでは、と総合ランキングを見てあらためて思った。

■アルバム中で最も人気曲は 「心の花を咲かせよう」

そんな彼らの中で最も有名なアルバム曲は、2008年末に発売された3rdアルバム『My Song Your song』に収録された「心の花を咲かせよう」だろうか。本作は第87回全国高等学校サッカー選手権大会応援歌に起用された山下穂尊の作詞・作曲のナンバーで、サッカー経験者を対象としたエールソングのアンケートでは上位に来ることも多く、彼らのアルバム曲の中で唯一配信10万件ヒットを記録している。

ちなみに、これまで発売された3作のベストアルバムすべてに収録されているので、幾つかのシングルより人気だろうし、この後もサッカー少年たちのエールソングとして広まっていくだろうし、数年後、更に人気が上昇していることだろう。

■色あせることのない スタンダードな音楽を

それにしても、J-POPのど真ん中を挑む若手バンドが活動休止してしまうのは、なんとも寂しい限り。それでも、彼らにしか描けない世界はしっかりあるので、活動再開後、突如、リズム中心のEDMなどに目覚めることなく(笑)、以前にもまして、いつ聞いても色あせることのないスタンダードな音楽を私たちに届けてくれることを信じている。

プロフィール
臼井 孝(うすい・たかし)
1968年京都府出身。地元大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析や配信サイトでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪



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