デビュー時から独自のルーツ志向を突き進むロス・ロボスの『ハウ・ウィル・ザ・ウルフ・サヴァイヴ?』

OKMusic / 2020年6月19日 18時0分

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(okmusic UP's)

チカーノ・ロックの大スター、リッチー・ヴァレンスの生涯を描いた87年の映画『ラ・バンバ』で主題歌を歌い全米1位を獲得、一気にその名が知られたロス・ロボス。彼らもヴァレンス同様、メンバーのほぼ全員がチカーノである。チカーノとはメキシコ系アメリカ人を指し、チカーノロックとは文字通りメキシコ系アメリカ人のルーツを生かしたロックのことである。サンタナやマロなどもチカーノロックと呼んでも差し支えはないが、年配の人間にとってはラテンロックという呼び方のほうが親しみやすいかもしれない。今回はチカーノのルーツを大事にしながらもロックの楽しさをいっぱい詰め込んだ彼らの3枚目のアルバム『ハウ・ウィル・ザ・ウルフ・サヴァイヴ?』を取り上げる。

■メジャー・シーンと インディーズ・シーン

70年代後半から80年代の初頭、いわゆるポストパンク時代のアメリカでは、MTV(81年開局)によく登場するメジャーレーベルのアーティストやディスコで人気のあるグループとは違い、地元ライヴハウスでひたすら腕を磨くインディーズのアーティストたちが多数いて、メジャーとインディーズのチャート(カレッジ・メディア・ジャーナル等)では、同じロックでもそれぞれ違ったサウンドに注目が集まっていた。

ちなみに、83年のビルボード年間チャートとカレッジ・メディア・ジャーナル(以下CMJ)を比べてみると、ビルボードではマイケル・ジャクソンの『スリラー』、メン・アット・ワークの『ワーク・ソングス(原題:Business as Usual)』、ポリスの『シンクロニシティ』、ホール&オーツの『H2O』、プリンスの『1999』、ライオネル・リッチーの『ライオネル・リッチー』などが上位を占めている。CMJでは、U2の『ウォー』、カルチャー・クラブの『キッシング・トゥ・ビー・クレバー』、イングリッシュ・ビートの『スペシャル・ビート・サービス』、デビッド・ボウイの『レッツ・ダンス』、プリンスの『1999』と、意外にも僕が思ってるより大差はなかった。実はメジャーとインディーズに違いが出るのはもう少し後(80年代後半以降)になってからなのだが、CMJではこの年すでにR.E.M.(7位)やヴァイオレント・ファムズ(13位)など、インディーズのアーティストがチャートインしているのは興味深い。

当時、ビルボードで上位に入っているのは、メロディーの美しさ、ハイレベルの演奏技術、ダンサブル(ディスコが流行していたので)な作品が多いように思う。一方、CMJではテクニックは稚拙であってもパンクスピリットを持っていたり、ダイナミズムが感じられたりする作品に注目が集まっていたようだ。要するに、この頃からじわじわとオルタナティブロックの微風が吹き始めていたのである。

■スラッシュ・レコードの躍進

70年代終わりにロスで設立されたスラッシュレコードは、インディーズのパンクロッカーを世に出すべく活動していた。このレーベルに在籍していたのは、西海岸で最もうるさいロックバンドと言われていたXやパンカビリー(パンク+ロカビリー)のブラスターズなどで、彼らには多くのファンがついていたことから、スラッシュはメジャーのワーナーブラザーズが配給することに決まった。

イーストL.A(チカーノが多い)のライヴハウスではブラスターズやXの他、ミニットメン、ブラック・フラッグなど、グランジやオルタナティブロックのアーティストと並んで、80年初頭にはロックンロールやテックス・メックスを演奏するロス・ロボスもまた活動していた。

■ロス・ロボスの結成

メンバーのデビッド・イダルゴ(Gu)とルーイ・ペレス(Dr)は高校の同級生で、フェアポート・コンヴェンションやライ・クーダーを好んで聴いていたことから、お互いを変人と思いつつも仲良くなり、グループを結成することになる。そして、セサル・ロサス(Vo)とコンラッド・ロサーノ(Ba)が加わって、74年にはほぼ現在のメンバーが揃っている。最初はクリームやジミヘンのコピーからスタートし、トップ40の曲を演奏したりもしていたのだが、イーストL.Aに住むチカーノの間でメキシコ音楽を見直そうという運動があり、彼らもまた古いメキシコの曲を演奏するようになる。

そして、1978年には全編スペイン語のデビューアルバム『ジャスト・アナザー・バンド・フロム・イースト・L.A(スペイン語の原題:Del Este De Los Angeles)』を自主制作でリリースする。余談だが、このアルバムのタイトルはフランク・ザッパが72年にリリースしたアルバム『ジャスト・アナザー・バンド・フロム・L.A』をもじったものである。このアルバムでは本気のメキシコ音楽にチャレンジしており、88年にリリースする『ピストルと心(原題:La Pistola Y El Corazon)』はこの続編とも言えるだろう。

■ライヴハウスでのつながり

デビューアルバムをリリース後は、ロックとチカーノ音楽を交えながらライヴハウスで活動するようになる。そこで前述のブラスターズやXと懇意になるわけだが、その頃のイーストL.Aのライヴハウスでは、パンクロック、カントリー、ブルーグラス、ブルース、R&Bなどのアーティストが入り乱れ、それぞれの音楽に影響され合っていた。これがもとになって後にオルタナカントリーやアメリカーナが生み出されることになるわけで、その歴史的な場面にロス・ロボスもいたわけである。ブラスターズのデイブ・アルヴィンはXのエクセン・サーベンカと一緒にニッターズというオルタナ・カントリーのグループをスタートさせ、それを観たクラッシュのジョー・ストラマーがカントリーに影響されるようになるなど、当時のイーストL.Aでは早くから90年代に向けたオルタナティブで自由な空気が漂っていたのだろう。

同時期、カントリーシンガーで俳優のドワイト・ヨーカム(映画『パニックルーム』で恐ろしい人物を演じていた)や、アメリカーナ・シンガーのルシンダ・ウィリアムス、俳優でシンガーのハリー・ディーン・スタントン(デビッド・リンチ監督やヴィム・ヴェンダース監督のお気に入り俳優)なども、この周辺で活動していたアーティストである。

■スラッシュレコードとの契約、 メジャーデビュー

そして、ロス・ロボスはスラッシュと契約し、メジャーデビューEP『アンド・ア・タイム・トゥ・ダンス』(‘83)をリリースする。プロデューサーにはT・ボーン・バーネットを迎え、ゲストミュージシャンとしてブラスターズのスティーブ・バーリンがサックスで参加している。このアルバムでは、ロックンロールやテックスメックス、カントリーロックなどがパワフルに演奏されていて、デビッド・イダルゴのギターワークをはじめ、メンバーの演奏技術はハイレベルだ。他のポストパンクのアーティストと比べると別次元のテクニックだと言えるだろう。

■本作『ハウ・ウィル・ザ・ ウルフ・サヴァイヴ?』について

前作でゲスト参加していたスティーブ・バーリンは、本作からロス・ロボスの正式メンバーとして加入する。グループにとっては初の非チカーノのメンバーだ。バーリンはブラスターズから移籍というかたちとなったわけだが、もともとグループ同士が家族のような付き合いをしているだけに円満移籍となった。

本作の収録曲は全部で11曲。ロック、テックスメックス、サザンソウル、アパラチアントラッド風などのナンバーが収められている。どの曲もスタンダードかと思うぐらい親しみやすいメロディーを持っており、アレンジも文句なしだ。

アレンジについてはT・ボーン・バーネットのこだわりのプロデュースならではの仕上がりである。元ルーツロッカーのバーネットは本作のプロデュースで業界筋に認められ、重要作品のプロデュースを任される存在となる。今やプロデューサーとしてはアメリカ音楽界でドン・ウォズと並ぶビッグネームだろう。バーネットはコーエン兄弟の映画ではしばしば音楽監督を務めており、ジョージ・クルーニー主演の『オー・ブラザー』のサントラは700万枚以上のセールスとなり、2002年のグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞している。

前作同様、セサル・ロサスの伸びやかなボーカルとデビッド・イダルゴのハイレベルのギターワークは健在だ。また、イダルゴのウエスタンスウィング風のラップ・スティールとフラコ・ヒメネスに影響を受けたと思われるアコーディオンも素晴らしい。彼はロック界の優れたギタリストとして記憶されるべき人材だ。

アルバムにはもちろんスローなナンバーも収められているが、どれもリズムのメリハリが効いており、聴いているだけでエネルギーに満ちていく感じが味わえる。本作のすごさは、音楽は楽しいものだということを再認識させてくれるところにあると思う。

なお、このアルバムはジョー・ストラマーの愛聴盤となり、クラッシュの前座でロス・ロボスが起用されることが増え、認知度がかなり高まった。

本作以降、実験的な名作『キコ』(‘92)や『コロッサルヘッド』('96)など、意欲作を次々にリリースし、ロス・ロボスはアメリカのロックグループの最高峰と言われるまでになるのであるが、僕は音楽を本当に楽しんでやっている初期の彼らが好きだ。

TEXT:河崎直人

アルバム『How Will The Wolf Survive?』

1984年発表作品



<収録曲>
1. ドント・ウォリー・ベイビー/Don't Worry Baby
2. 安らぎを求めて/A Matter Of Time
3. 愛は想い出の中に/Corrido No.1
4. 最後の夜/Our Last Night
5. ブレークダウン/The Breakdown
6. 酒飲みの唄/I Got Loaded
7. セレナータ・ノルテニヤ/Serenata Nortena
8. イヴァンジリン/Evangeline
9. わかってほしいこの気持ち/I Got To Let You know
10. キング・オブ・エヴリシング/Lil' King Of Everything
11. ウィル・ザ・ウルフ・サヴァイヴ/Will The Wolf Survive?



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