ブルーグラスとロックをクロスオーバーする偉大なアーティストたちによるユニットアルバム『ミュールスキナー』

OKMusic / 2020年10月30日 18時0分

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(okmusic UP's)

グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアをはじめ、スティックスのトミー・ショウ、元イーグルスのバーニー・レドンなど、ブルーグラス出身のロッカーは多いが、中でもバーズのギタリストとして、そしてスタジオミュージシャンとして多くのアルバムに参加したクラレンス・ホワイトは、トップアーティストのひとりであった。バーズ解散後の1973年7月15日、クラレンスは新たに結成したグループの公演が終わって機材を車に積み込んでいた時に、飲酒運転の車に追突され亡くなってしまう。まだ29歳であった。今回取り上げるのは、彼の死の半年ほど前に録音された『ミュールスキナー』というセッションアルバム。参加メンバーはクラレンスの他、ピーター・ローワン、リチャード・グリーン、ビル・キース、デビッド・グリスマンの5名で、ジェリー・ガルシアやマリア・マルダーのバックで知られるジョン・カーン(Ba)とL.A・エクスプレスのジョン・ゲラン(Dr)がサポートメンバーとして加わっている。

■ブルーグラス音楽

クラレンス・ホワイトは最初はブルーグラス界で頭角を現すのだが、まずブルーグラス音楽について簡単に説明しようと思う。ブルーグラスはケンタッキー出身のビル・モンローが創造した一種のアメリカーナ音楽で、アパラチア周辺の白人ストリングバンドと黒人カントリーブルースのエッセンスを凝縮し、ジャグバンド、ウェスタンスウィング、ケイジャン等も視野に入れた、いわば各種ルーツ音楽を融合したアコースティック楽器が中心の商業音楽である。ブルーグラスの完成は、一般的にはバンジョーのアール・スクラッグスとギターのレスター・フラットがモンローのブルーグラス・ボーイズに参加した時(1945年頃)だと言われている(僕はモンローのブルーグラス・スピリットはその数年前に完成したと考えている)。

ブルーグラスの花形楽器はバンジョー、マンドリン、フィドルであり、ギターは主にリズムを刻んだり、アクセントをつけたりするための楽器であった。バンジョーはアール・スクラッグスのスリーフィンガーによる革新的なスクラッグス奏法が、ギターはレスター・フラットの奏法(Gランなど)がブルーグラスの基本スタイルとして継承されていく…様式美としての音楽を構築するという意味では、ヘヴィメタルとオーセンティックなブルーグラスは似ているかもしれない。その後、後期カントリー・ジェントルメンやブルーグラス・アライアンスが新風を吹き込み、70年代初頭にニューグラス・リバイバルが登場することでブルーグラス音楽は転換点を迎える。

■卓越したクラレンス・ホワイトの ギタープレイ

南部発のブルーグラスがある意味で民謡保存会のような保守的な動きを見せていた時期に、西海岸で活動していたクラレンスは、盲目の天才的なギタリスト、ドク・ワトソンやロックンロール的な技巧を持つジョー・メイフィスといったスーパーギタリストを模範にして、ブルーグラスにリードギターの概念を持ち込む。ピックと複数の指を使いシンコペーションを効かせたクラレンスのギターソロは驚くべきテクニックであり、その圧巻のプレイは彼の在籍したケンタッキー・カーネルズの『アパラチアン・スウィング』(’62)などで聴くことができる。このとき、クラレンスはまだ未成年である。

65年ごろにはクラレンスはジェームス・バートンやジミー・ブライアントらに影響を受け、アコースティックギターだけでなくエレキギターも弾くようになる。そして、セッションマンとして活動を開始するわけだが、彼がテレキャスターに仕込んだのはセカンド・ショルダー・ストラップ・ストリング・ベンダー(現在のB-ベンダー)と呼ばれる装置で、これはチョーキングせずとも、ネックを動かすことで2弦を1音上げることのできる機器である。この装置を使うとチョーキングとは違ったペダルスティールギターのような滑らかなサウンド効果が得られるので、彼のプレイは衆目を集め、多くのセッションに呼ばれることとなる。結果的にはバーズのメンバーとして迎えられ、その演奏はジミー・ペイジやアルバート・リーなど、多くのアーティストが注目するところとなり、数多くのフォロワーを生むことになる。

■他の参加メンバー

本作に参加したクラレンス以外のメンバーも才能豊かなアーティストたちばかりである。ヴォーカルとギターのピーター・ローワンは、ビル・モンローのブルーグラス・ボーイズ出身で、モンローに似たハイロンサムヴォーカルを信条とするアーティストだが、アース・オペラやシー・トレインといったロックグループでの活動をはじめ、レゲエやテックス・メックスなどに傾倒したソロアルバムも数多くリリースしている才人である。1977年にはローリング・ココナッツ・レビューの一員としてジョン・セバスチャンやエリック・アンダーソンらと共に初来日も果たしている。

フィドルのリチャード・グリーンとバンジョー及びペダルスティールのビル・キースも、ローワンと同様ブルーグラス・ボーイズ出身で、グリーンはクラシックのバイオリニストからフィドル奏者への転身であり、ローワンとはシー・トレインでも一緒であった。キースはスクラッグス奏法だけでなく、クロマティック奏法と呼ばれるバンジョーの革命的な奏法を生み出し、キース・チューナーを考案したことでも知られる。彼らもまた多くのセッション活動をこなす傍ら、いくつかのソロアルバムをリリースしている。

マンドリンのデビッド・グリスマンはローワンとアース・オペラに参加し、2枚のアルバムをリリースしている。グループ解散後はジェリー・ガルシア、ピーター・ローワン、ジョン・カーンらとともにオルタナティブ・ブルーグラス・グループのオールド・アンド・イン・ザ・ウェイを結成、73年にボーディングハウスでの公演を収録したライブ盤の傑作『Old & In The Way』(’75)をリリースしている。グリスマンはモンロータイプのマンドリン奏者として世に出たが、ブルーグラスとジプシージャズなどを融合させたドウグ音楽を生み出すなどのほか、ガルシアとも多数の音源をリリースしている。

■本作『ミュールスキナー』について

そもそも本セッションは、ビル・モンローが出演する予定だったテレビ番組のオープニングアクトとして企画されたものである。当日は数曲を演奏するだけのはずであったが、モンローとブルーグラス・ボーイズの乗ったツアーバスがスタジオに向かう途中で故障したため、急遽彼らがその穴を埋めることになった。この時の演奏は後になって『ミュールスキナー・ライブ』(’98)としてビデオ、DVD、CDがリリースされている。収録曲は13曲で、1曲のみマリア・マルダーがヴォーカルで参加している。メンバーのコーディネートはグリーンによるもの。

そのテレビ番組での演奏が素晴らしかったため、ワーナーブラザーズからスタジオ収録の依頼があり、制作されたのが本作『ミュールスキナー』である。テレビ収録時の曲とは2曲(「Dark Hollow」「Opus 57 in G Minor」)しかダブっていない。プロデュースはグリーンと名プロデューサーのジョー・ボイドが担当している。

収録曲は全部で11曲、LP時代のサイドAにあたる前半6曲のうち5曲はビル・モンローに敬意を表し、モンローの十八番が収められている。「ミュールスキナー・ブルース」「ブルー・アンド・ロンサム」の2曲は、ブルーグラスロック的な仕上がりで、クラレンスはどちらもB-ベンダーを使用している。「ブルー・アンド・ロンサム」はクラレンスがリードヴォーカル、キースはペダルスティールを弾いており、グリスマンのマンドリンはモンロータイプの泥臭いプレイを聴かせる。「Footprints In The Snow」「Dark Hollow」「Whitehouse Blues」はブルーグラス・ボーイズを彷彿させる演奏で、クラレンスのシンコペーション効きまくりのギターソロをはじめ、ドライブのかかったグリーンのフィドルとセンスの良いキースのバンジョーなど名演揃い。
「オパス57・イン・Gマイナー」はグリスマン作のインストで、何度も再演されている彼の代表曲のひとつ。「ランウェイズ・オブ・ザ・ムーン」はカントリーロックで、シー・トレイン時代に書かれたローワン作品。「ロアノーク」「ソルジャーズ・ジョイ」の2曲はブルーグラスではお馴染みのインスト曲。バンジョーをオーバーダブするなど、細かい部分まで手抜きのないのがミソである。「レイン・アンド・スノウ」はトラッド曲にもかかわらず、ローワンのアレンジによって彼の自作曲のような仕上がりである。グリーンのブルージーなフィドルソロが絶品だ。ローワン作の「ブルー・ミュール」は名曲で、かつ各プレーヤーの名演が味わえる。この曲がアルバムのハイライトであり、全員のドライブのかかりまくったプレイには脱帽だ。

本作リリース前にクラレンスが亡くなっているので、このアルバムは彼に捧げられている。なお、彼が亡くなる1カ月前には初のソロアルバムのレコーディングがスタートしており、6曲の録音が終了していたが残念ながらアルバムがリリースされることはなかった。うち4曲は後にリリースされたコンピレーション盤『Silver Meteor:A Progressive Country Anthology』(’80)に収録されている。

TEXT:河崎直人

アルバム『Muleskinner』

1974年発表作品



<収録曲>
1. ミュール・スキナー・ブルース/Muleskinner Blues
2. ブルー・アンド・ロンサム/Blue And Lonesome
3. フットプリンツ・イン・ザ・スノウ/Footprints In The Snow
4. ダーク・ホロウ/Dark Hollow
5. ホワイトハウス・ブルース/Whitehouse Blues
6. オーパス 57 イン G マイナ/Opus 57 in G Minor
7. ランナウェイズ・オブ・ザ・ムーン/Runways Of The Moon
8. ロアノーク/Roanoke
9. レイン・アンド・スノウ/Rain and Snow
10. ソルジャーズ・ジョイ/Soldier's Joy
11. ブルー・ミュール/Blue Mule



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