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フィルモア・イーストでライヴ録音されたタジ・マハールの異色作『ザ・リアル・シング』

OKMusic / 2021年8月27日 18時0分

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(okmusic UP's)

90年代になって新たに登場したアメリカーナというジャンルは、60年代から活躍するルーツ系ミュージシャンの立ち位置を明確にする役割を果たしたと言えるかもしれない。ザ・バンドやライ・クーダーなどは、ぎりぎりアメリカンロックと呼んで呼べないことはないかもしれないが(やっぱり無理か…)、黒人アーティストのタジ・マハールはまさにアメリカーナ系アーティストの最右翼だろう。彼はデビュー前からブルースをはじめ、ロック、フォーク、ソウル、ブルーグラス、ジャグバンド、オールドタイム、ワールドミュージックなどのさまざまな音楽に精通していたのだが、レコード会社はブルース1本に絞って無理矢理ブルースロッカーという括りでデビューさせている。ジャンルをまたがるような音楽は売れないと考えられていた時代ならではの、まさに苦肉の策であった。今回紹介する『ザ・リアル・シング』は通算5枚目となるタジの初のライヴアルバムだ。本作はロック色が濃く、タジがブルースロッカーという呪縛から解放されただけでなく、チューバ4本をバックに従えるなどかなり異色の作品ではあるが、ライヴの熱気が伝わる傑作に仕上がっている。

■インテリ黒人としての育ち

タジの父親はジャズピアニスト兼アレンジャーを務めており、彼は生まれた頃から世界中のワールドミュージックを聴くなど、音楽的に恵まれた環境にあった。両親の勧めで幼少期からクラシックピアノやクラリネットを習い、さまざまな音楽を浴びるように聴いていた。彼の育った東部のマサチューセッツ州は、ニューヨークのグリニッチビレッジと並ぶフォークリバイバルの中心で、ライヴの観られるカフェ(クラブ47など)もあって、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズらのような著名なアーティストが毎日のように出演している。思春期になると彼もまたフォークリバイバルの洗礼を受け、スリーピー・ジョン・エスティス、ロバート・ジョンソン、ガス・キャノン、ウディ・ガスリーらのレコードを聴き、ギターやマウスハープを練習するようになる。農業の勉強をするためにマサチューセッツ大学に入学するものの音楽活動は辞められず、プロになるためにカリフォルニアへと移ったのだった。

■ブルースの研究

64年に西海岸に移り、ライ・クーダーとともに伝説のライジング・サンズを結成すると、ライヴハウスではバーズと並ぶ人気グループになり、大手コロンビアレコードと契約する。ところが、ジャンルにとらわれない彼らの音楽性が仇となり、シングルをリリースしただけでアルバムは結局リリースされることはなかった。この時の録音が世に出るのは92年になってからである。フォークリバイバルに影響を受けたライとタジは音楽的な傾向は似ており、ふたりともトラッドを追求したニュー・ロスト・シティ・ランブラーズに大きな影響を受けていると言っていいだろう。タジは西海岸でブルースの大物たち(ハウリン・ウルフ、ライトニン・ホプキンス、バディ・ガイなど)との付き合いを通してブルースの研究を真剣にやるようになり、ソロとしてデビューを果たす。

■ブルースロックからアメリカーナへ

68年、ソロデビューとなる『タジ・マハール』をリリース、盟友ライ・クーダーと名ギタリストのジェシ・デイヴィスが参加し、オリジナルとカントリーブルースのカバーを交えた西海岸では珍しいブルースロックスタイルを披露している。このアルバムはイギリスのブルースロック系アーティストやデュアン・オールマンにも影響を与え、このアルバムに収録された「ステイツボロ・ブルース」はサザンロックの誕生に大きく貢献することになる。

同じ年、2ndアルバム『ナッチェル・ブルース』をリリース。すでにライは抜けているがジェシ・デイヴィスのオクラホマの仲間たち(ベースのゲイリー・ギルモア、ドラムのチャック・ブラックウェル)がリズム・セクションを担当、アル・クーパーのエレピでの参加もあって、タジによる新しいブルースの解釈が聴けるアルバムとなった。この作品にはブルースだけでなく、のちにブルース・ブラザーズで有名になるタジ作のルーツロックナンバー「シー・コート・ザ・ケイティ(アンド・レフト・ミー・ア・ミュール・トゥ・ライド)」や、サザンソウルの2曲「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」(ウィリアム・ベル作)、「ア・ロット・オブ・ラブ」(ホーマー・バンクス作で、スペンサー・デイヴィス・グループの大ヒット曲「ギミ・サム・ラヴィン」の元歌)が収録されるなど、アメリカーナ的な要素を持った傑作となった。

また、同じ年にはローリング・ストーンズに呼ばれて渡英し、映像作品『ロックンロール・サーカス』に出演した他、ストーンズの傑作アルバム『ベガーズ・バンケット』にも参加するなど、大忙しであった。

次作は2枚組の大作『ジャイアント・ステップ/ディ・オール・フォークス・アット・ホーム』(’69)である。バンド編成(ジャイアント・ステップ)とソロ演奏(ディ・オール・フォークス・アット・ホーム)を一枚ずつに収め、バンド編成のセットではキャロル・キング、ジェシ・デイヴィス、ザ・バンドのカバーだけでなく、カントリーの「シックス・デイズ・オン・ザ・ロード」(ニュー・ライダースやフライング・ブリトー・ブラザーズもカバーしているロードソングの名曲!)を取り上げるなど、ますますアメリカーナ的な広がりを見せている。

■本作『ザ・リアル・シング』について

そして、71年にタジ初のライヴアルバムとしてリリースされたのが本作『ザ・リアル・シング』(発売当時はLP2枚組)である。これはフィルモア・イーストでのライヴ録音で、東海岸への遠征だからか、パーカッションのロッキー・ディジョンを除いて、ジェシ・デイヴィスをはじめとするいつものメンバーは参加していない。本作のメンバーはジョン・サイモンがキーボード、ギターにジョン・ホール、べースはビル・リッチ、ドラムはグレッグ・トーマスというウッドストック在住チーム(メンバーはジョン・サイモンが決めたのだろう)である。すごいのはチューバ奏者が4人参加していることである。ハワード・ジョンソン、アール・マッキンタイア、ボブ・スチュワート、ジョセフ・デイリーといった、ジャズ(特に前衛ジャズ)界で活躍するプレーヤーである。この中のハワード・ジョンソンとアール・マッキンタイアはザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』(’72)にも参加しており、おそらくジョン・サイモンのお気に入りのプレーヤーたちだと思われる。

『ジャイアント・ステップ』に収録されていたインストナンバー「もうディキシーなんか吹くもんか(原題:Ain’t Gwine To Whistle Dixie(Any Mo’))」は9分以上に及ぶ熱演で、ジョン・ホールのギターソロとハワード・ジョンソンのバリトンサックスソロが素晴らしい。ちなみにこの曲「ファーザー・オン・ダウン・ザ・ロード」と同じ曲である。なお、チューバ4本のアンサンブル重低音は「スウィート・ママ・ジャニース」でたっぷり聴ける。ジャジーなブルースナンバー「ジョン・エイント・イット・ハード」でもチューバのアンサンブルは絶好調である。アルバムのラストを締め括るシャッフルナンバーの「これが、僕のブルースさ(原題:You Ain’t No Street Walker Mama, Honey But I Do Love The Way You Strut Your Stuff)」は19分近くあるが、タイトな演奏とメリハリのある構成でどんどん引き込まれていき、熱気あふれる大団円を迎える。ここでもジョン・ホールの好サポートが光っている。なお、収録曲は全部で10曲であったが、CD化に際して1曲(「シー・コート・ザ・ケイティ(アンド・レフト・ミー・ア・ミュール・トゥ・ライド)」)が追加収録されている。

本作のあと、このライヴ時のメンバーと『Happy Just To Be Like I Am』(’71)をリリース(ギターはジョン・ホールではなく、ホーシャル・ライトとジェシ・デイヴィス)し、4管チューバのほかスティールドラムを使うなど、タジがアメリカーナからワールドミュージックへと変わっていく予兆が見られる。

TEXT:河崎直人

アルバム『The Real Thing』

1971年発表作品



<収録曲>
1. フィッシン・ブルース/Fishin' Blues
2. もうディキシーなんか吹くものか/Ain't Gwine to Whistle Dixie (Any Mo')
3. スウィート・ママ・ジャニース/Sweet Mama Janisse
4. 田舎へ行って、僕の郵便箱を青く塗ろう/Going Up to the Country and Paint My Mailbox Blue
5. 君に首ったけ/Big Kneed Gal
6. 誰かが必要/You're Going to Need Somebody on Your Bond
7. トムとサリー・ドレイク/Tom and Sally Drake
8. ダイビング・ダック・ブルース/Diving Duck Blues
9. ジョン・エイント・イット・ハード/John, Ain' It Hard
10. シー・コート・ザ・ケイティ・アンド・レフト・ミー・ア・ミュール・トゥ・ライド/She Caught the Katy (And Left Me a Mule to Ride)
11. これが俺のブルースさ/You Ain't No Street Walker Mama, Honey but I Do Love the Way You Strut Your Stuff



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