1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 音楽

ジャズとパンクの壁を打ち破ったジェームス・ブラッド・ウルマーの『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』

OKMusic / 2021年9月24日 18時0分

写真

(okmusic UP's)

パンク〜ポストパンク時代を支えたインディーズレーベルは多いが、イギリスのラフ・トレードが果たした役割は大きかったと思う。1976年、ジェフ・トラビスが経営する小さなレコードショップからスタートし、78年にレーベルを設立。キャバレー・ボルテールやスティッフ・リトル・フィンガーズ等をはじめ、パンク、ネオアコ、カウパンク、パワーポップ、レゲエ、ダブなど、一見節操がなさそうではあるがポストパンクに相応しいアーティストを抱えるレーベルとして若者から信頼を得ていた。日本でも「知らないアーティストだけど、ラフ・トレードの新譜なら買ってみようか」というぐらい人気があったと記憶している。そんな中にあって異彩を放っていたのが今回取り上げるジェームス・ブラッド・ウルマーの『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』である。本作は当時のニューヨーク・アンダーグラウンドジャズにおける最も新鮮な瞬間を記録したものであり、そのサウンドはパンキッシュとも言える過激なファンクロックであった。

■オーネット・コールマン

ブルースを祖先に持つジャズはそもそもダンス音楽として生まれた音楽だ。それが、クール〜ハード・バップ期を経る中で徐々にアカデミズムに陥っていく。1961年にリリースされたオーネット・コールマンの『フリー・ジャズ』は、ふたつのグループ(オーネットのカルテットとエリック・ドルフィーのカルテット)が同時に即興演奏するという画期的なもので、構想はオーネットによるものであった。

独学でジャズを学んだオーネットはプラスティック製のサックスを使う(貧乏だったため)などデビュー時からはみ出し者扱いであったが、彼自身はジャズを自由に演奏するために信念を持って活動していたのである。彼は「嬉しい時に演奏するFと悲しい時に演奏するFは違う」と言い、学理など知らないブルースマンが素晴らしい演奏を残しているようにジャズマンも自由な演奏をするべきだと主張した。彼の考えは、ある種パンクロックの思想と似た部分があると言えよう。具体的なことは昔から今に至るまでよく分からないのだが、オーネットの音楽は彼の「ハーモロディック理論」に基づいて生み出されている。

■ジェームス・ブラッド・ウルマー というアーティスト

ウルマーは60年代からソウルジャズのグループのバックを中心に活動しており、この時期のギタープレイはグラント・グリーンに似たブルージーなスタイルで至極普通のジャズギターを演奏している。ところが、70年代に入りオーネットと出会ったことでそのプレイに転機が訪れる。オーネットのツアーギタリストを務めるようになってハーモロディック理論を学び、オーネットから大きな影響を受けるのだが、オーネットもまたウルマーをバックに起用することで70〜80年代のファンク路線のきっかけを掴むことになったのである。

オーネットの推薦で新興レーベルのアーティストハウスから、ジェームス・ブラッド名義の『テイルズ・オブ・キャプテン・ブラック』(’79)で待望のソロデビューを飾る。メンバーはウルマー、オーネットのほか、超絶テクニックのベーシスト、ジャマラディーン・タクーマとデナード・コールマン(オーネットの息子で売り出し中のドラマー)で、硬派のアバンギャルドジャズ作品として評論家や熱心なジャズファンに認識される。流麗とは真逆をいく、喉に痰が引っかかったようなウルマーの特徴的なギタープレイはこのアルバムですでに完成している。

■本作 『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』について

そして、ソロ2作目となる本作がラフ・トレードからリリースされた。サックスにデビッド・マレイとオリバー・レイク、トランペットにオル・ダラ、本作以降ウルマーのサウンドに欠かせない重量級のリズムセクションにアミン・アリ(Ba)とカルビン・ウエストンとロナルド・シャノン・ジャクソン(Dr)という強力なメンバーが参加。また、プロデュースにはウルマーのほか、ハービー・ハンコックやゴールデン・パロミノスを手がけたロジャー・トリリングとアバンギャルド・ロックグループで知られるレッド・クレイオラのメイヨ・トンプソンが務めるなど、こんなすごい面子をよくぞ揃えたものである。本作はまさに、80年代初頭におけるニューヨークの最先端ジャズシーンを紹介するドキュメントだと言えるだろう。

サウンドはというと、フリージャズ、ロック、ファンク、パンク、アバンギャルド(ワールドミュージックの要素も少しだけある)が渾然一体となって、最初から最後まで息苦しいほどのハイテンションで迫ってくる。ウルマーはのちに本作はハーモロディクス理論を具現化した最初のアルバムだと述べている。参加メンバーはそれぞれ個々のプレイをしながら、変化が起これば柔軟に即興で応えるという流れであったようだ。なお、タイトルトラックではウルマーの特徴的なヴォーカルを聴くことができるが、歌入りのナンバーはロック/ブルース色が濃くなるのは本作以降のアルバムと同じである。

また、本作のジャケットはLP時代、英ラフ・トレード盤、米アーティストハウス盤、日本盤、ヨーロッパ盤で全て違ったデザインが使われており、贔屓目なしに日本盤のジャケットが文句なしに素晴らしかった。95年にDIWがCD化した時、違うジャケット(2種類あり)だったので残念であった。次回のCD化の際にはぜひ日本盤LP時に使われたオリジナルジャケットで再発してもらいたい。

最後に、実はウルマーのサウンドが完成するのはコロンビアレコードからリリースされた大傑作の4thアルバム『ブラック・ロック』('82)なのだが、現在入手しにくいためあえて本作(もちろん、こちらも傑作なので…)を取り上げた。91年にニッティング・ファクトリーからリリースされたコンピ『ニッティング・ファクトリー・ツアーズ・ヨーロッパ1991』では、ジェームス・ブラッド・ウルマー・ブラック・ロック・リバイバルというグループ名であることから、彼自身『ブラック・ロック』に対する思い入れは特別なのだろうと思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?』

1080年発表作品



<収録曲>
1. レイアウト/Layout
2. プレッシャー/Pressure
3. インタビュー/Interview
4. ジャズ・イズ・ザ・ティーチャー/Jazz Is The Teacher (Funk Is The Preacher)
5. シー・スルー/See-Through
6. タイム・アウト/Time Out
7. T.V.ブルース/T.V. Blues
8. ライト・アイド/Light Eyed
9. レヴェレイション・マーチ/Revelation March
10. アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?/Are You Glad To Be In America?



この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング