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“夢のコント番組”『落下女』なぜ半年で終了? 安島隆氏がつづる苦い思い出【全文掲載】

ORICON NEWS / 2023年11月8日 18時0分

『でも、たりなくてよかった たりないテレビ局員と人気芸人のお笑い25年“もがき史“』(KADOKAWA)

 お笑いコンビ・南海キャンディーズの山里亮太、オードリーの若林正恭による『たりないふたり』の仕掛け人・安島隆氏が、書籍『でも、たりなくてよかった たりないテレビ局員と人気芸人のお笑い25年“もがき史“』(KADOKAWA)を刊行した。ORICON NEWSでは、同書の魅力を伝えるべく、第2章から「初めて企画・演出したテレビ番組『落下女』」のパートを紹介する。

【写真】水卜麻美の笑顔と安島氏のぎこちないZIPポーズが対照的!

 演出家として誰もが知るほどの大ヒットを飛ばしたわけでもない、会社員として仕事術を語れるほどの成果を上げたわけでもない、キャリアは山あり、谷あり。圧倒的に、谷多めで深め。お笑いとテレビとライブの波間で必死にもがくテレビ局員の姿は、会社や学校、家庭で上手に生きられない「たりない」あなたの胸に突き刺さるものとなる。



 バナナマン・おぎやはぎ・ラーメンズなど、ブレイク前の人気お笑い芸人たちとの知られざるエピソードのほか、山里、若林とのスペシャル対談も必読だ。

■初めて企画・演出したテレビ番組『落下女』全文

「君の席」が終了した後も、設楽さんが声をかけてくれて、バナナマン、おぎはやぎ
共演のオリジナル映像コントDVD「錆鉄ニュータウン」を演出した。こちらの発売元はVAPではなかったので、あくまで「趣味の一環」としての制作。4人出演の物語仕立てのコントやコンビごとのコント、個人のコントなどいろいろなバリエーションの映像コントを制作できた。

その中で印象に残るのが、4人出演の「恋のエチュード」という即興性が高いコントがかなり面白かったこと。「4人は大学の同級生」で「それぞれの仕事は○○」などの初期設定、そして最後の「日村さんが思いを寄せる女性に電話で告白する」というイベントだけを決める。途中で何が起きるかの想定はあるものの、基本的にあとはフリーで展開してもらう、というもの。4人のずば抜けた実力と信頼関係があって成立したコントだったが、アドリブ性が高いと、元々の関係性や人間性がより滲にじみ出る面白さがあった。これに気づいたことが、後に「もっとたりないふたり」の即興漫才にも生かされることになる。

この次はどうしてもテレビでお笑い番組をやりたい。とにかく肩が暖まっていた。そんな中、番組制作に再び異動することになった。気合いが空回り気味だった僕は、時には「安島が作りました」とメモした付箋を貼り付けた「君の席」のDVDを、社内関係各所のデスクにばらまいてアピールしたりした。生来の引っ込み思案から急に極端に鼻息が荒くなる感じ。このバランスの悪さは、たりなさの表れです(笑)。そんなこんなが実を結んだのか、31歳で初めて企画・演出する深夜コント特番が決まった。2005年4月に2回放送された「落下女」。芸人メンバーは、バナナマン、おぎやはぎ、ラーメンズ片桐くんという「君の席」からの同志に加え、当時既にテレビコントでも名を馳せていたドランクドラゴン。チーフ作家はオークラ。「君の席」「錆鉄ニュータウン」制作で得たノウハウや反省点を生かし、テレビコントにしたらより面白くなるはず、と自信が持てる要素をたっぷり。

そして、「モテない男たちがこうすれば女性を落とせるはず、という妄想コント」という番組テーマを自分なりに咀嚼。「彼らがそれに憧れている」という設定で、1990年代渋谷系カルチャーにこだわった衣装や音楽、ビジュアルなど、自分が好きな要素を詰め込んだ。その結果、満足いく内容ができた。DVDをばらまいた時には引き気味だった社内からも、絶賛の声が届いた。また、南海キャンディーズのマネージャー片山さんが、声をかけてくれたきっかけにもなった。

そして「落下女」は、同年10月から深夜のレギュラー番組に昇格する。芸人のレギュラーメンバーには、当時ブレイク中の南海キャンディーズとアンガールズも加わり、さらにパワーアップ。入社以来8年間、ストレートな道ではなかったけれど、ようやく夢が叶った。未来に希望しかないスタートだった。しかし初回放送を終えると……視聴率が悪かった。2回目、3回目の放送も数字は上がらない。すると社内の評価も途端に手のひら返し。特番を絶賛してくれた編成マンと廊下ですれ違っても、目を逸らされる。内容が下品だとか、コントが稚拙だとかいろいろな声が急に聞こえてきた。

「面白いコントなのに……なぜ?……」自分が面白いと思う内容と、視聴率とのギャップ。冷酷な現実が突き付けられた。しかし考えてみれば、好評を博しレギュラー化のきっかけになった特番は、過去のDVD制作やライブで試し、成功したエッセンスを詰め込んだものだった。一方、レギュラー番組となると、毎週走りながら新たなものを作り続けなければいけない。その違いは大きかった。社内の冷たい視線の中、上がらない視聴率を背に走り続けることは苦しかった。

苦しかったことと言えば、当時の日本テレビには、スタジオでコントを撮影するカルチャーとノウハウがあまりなかったこともある。スタジオ収録は、出演者・スタッフの拘束時間と負担が少なく効率のいい収録が多かった。それと対局にあるのがコント収録で、時にはムダに思えるほど時間とお金をかけて作るものとされていた。バナナマンやおぎやはぎ、ドランクドラゴンは、既に他局でのコント番組に出演中で、そのやり方に慣れていた。僕自身も芸人さんや作家さんからそんな話を聞いていた。実際、時間とお金がカツカツな状態でDVD制作やライブの演出をしてきた身からすれば、その大切さは身に沁みていた。

だから出演メンバーには、なるべくそんな他局のような雰囲気でコント作りをしているように見せかけていた。たとえばリハーサルを終えたメンバーが喫煙所でバカ話をしながら、本番ではどうするかを話している。楽しい空気から笑いは生まれると思うから、僕もその話に笑顔で付き合いながら、頭の中では着地点を探る。予算の関係、出演者のスケジュールの関係、諸事情で収録時間に余裕はない。早く結論を出さねばならない。その間も、僕が装着したインカムには、様々なスタッフの声が入り込んでくる。「いつまで待つんだろうな」「何か意味あんの?」「深夜になっちゃうよ」「これタク送(帰宅にタクシーを使うこと)になっちゃっても大丈夫?」と収録時間が押すことへの不安に不満。

そんなネガティブな空気がなんとかメンバーには伝わらないように、余裕があるフリをしていた。誰も悪くはない。僕が格好つけて、悩みを演者ともスタッフとも共有せず、勝手に両者の板挟みになって、勝手に辛かっただけだ。……すみません。苦しい、辛いが多いですよね。性格なんです。もう少しだけお付き合いくださいませ。当時のもう一つの悩みは、レギュラー化の目玉として加入してもらった南海キャンディーズが番組にフィットしないことだった。そもそも当時の南キャンは超不仲状態。現在のような互いの自宅を行き来するような良好な関係になるなんて想像もつかなかった。

二人がまともに会話しないので、山ちゃんからのしずちゃんへの提案は、僕が発信しているフリをしてしずちゃんに伝えていた。山ちゃん発信だと、それだけでしずちゃんがネガティブに受け取めがちだから、というのがその理由。そんな状態だから二人が共演するコントを作るのは難しい。でも二人が笑いを取り、躍動することがそのまま番組の勢いにもつながると思っていた。

そのための作戦として、しずちゃんには、共演の女優陣である杏さゆりさん、新垣結衣さんと、アイドルのように歌い踊る企画をレギュラー化した。新垣さんは当時17歳の高校生。そもそも芸人メンバーの相手役としてキャスティングしたのだが、とにかく勘が良くて最終的に彼女が中心となるボケ役のコントまで誕生した。本職の芸人さんへのリスペクトもあって緊張しながらも、精一杯演じてくれた。

ちなみに山ちゃんの最初のコントの相手でもある。その収録直後、緊張でガチガチだったことを早速反省する山ちゃんに「山里さんが緊張されていたので、私が緊張してる場合じゃないと思ってリラックスできました」と笑いを交えてフォロー。積極的に話しかけるタイプじゃないはずなのに。優しくて芯が強い高校生だった。そして、ここまでなかなかハマリ役に恵まれなかった山ちゃん。そもそも彼の、言葉一つで流れを変える決定力に惚れ込んで番組の真ん中に据えてきた。

だから番組の突破口は、彼が思いっ切りその強みを発揮することだと心に決めた。これからの番組の柱になるコーナーにしようと、山ちゃんメインのコント企画を立ち上げた。山ちゃんがサッカーのキーパー役。最初はシュート練習をする他のメンバーたちが、やがてサッカーと関係はないアドリブのセリフを放り込み、山ちゃんがそれに返していく、という構造。山ちゃんの瞬発力と対応力、返しの言葉のセンスが生きるはず、と思っていた。

そして、そのコントの結果は……、信じられないくらいの失敗に終わった。山ちゃんの返しの不発ぶりに、バナナマン設楽さんもおぎやはぎ矢作さんもフォローできない。僕はたまらずカットをかけた。明らかに落ち込んだ様子でスタジオから出ていく山ちゃん。がっかりしたような、憮然としたような表情の設楽さん。なんでこんなことに……。猛烈に頭をかきむしりたくなるが、収録時間の都合もあり、すぐに次のコント収録の準備をしなければいけない。次も山ちゃんの出番がある。

しんどいだろうけどなんとか切り替えてもらって……とその姿を捜すも見当たらない。メンバーのたまり場にもいない。たばこを喫わないから喫煙所にいるわけもない。ひょっとして2階にある山ちゃんの楽屋か?階段を駆け上がる。するとその先に座り込むおかっぱ頭の黒い影が……。時折漏れる深いため息が、階段に響く。そんな山ちゃんに、すぐに声をかけることもできなかった。正直に言うと、座り込みたいのは俺だよ、と絶望していた。あらゆる意味で稚拙だった31歳。夢だった深夜コント番組は、わずか半年で終了した。

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