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異形のステルス駆逐艦 ズムウォルト級2番艦「マイケル・モンスーア」が就役

おたくま経済新聞 / 2019年1月29日 15時4分

異形のステルス駆逐艦 ズムウォルト級2番艦「マイケル・モンスーア」が就役

マイケル・モンスーア収益式典(Image:アメリカ海軍)

 2019年1月26日(アメリカ西部時間)、カリフォルニア州サンディエゴのノースアイランド海軍航空基地で、ズムウォルト級駆逐艦の2番艦、マイケル・モンスーア(DDG-1001)の就役式典が行われました。2006年9月29日、イラクで自らの命を犠牲にして仲間を守った海軍特殊部隊(SEALs)のマイケル・モンスーア2等兵曹の名を冠した艦の就役式典には、故モンスーア2等兵曹の母親をはじめ、当時同じチームで任務に従事していた兵士たちも列席。フネの門出を祝いました。

 マイケル・モンスーアは、メイン州にあるジェネラル・ダイナミクス傘下のバス鉄工所で建造されました。艦名の由来となった故マイケル・モンスーア2等兵曹は、海軍の特殊部隊(SEALs)SEALチーム3の元隊員。2006年に「ケンタッキー・ジャンパー作戦」でイラクへ派遣されました。主な任務は、新生イラク軍の兵士をトレーニングするもの。同時に通信士/機関銃手として、治安維持のためのパトロール任務も行っていました。この時同じチーム3には、1920mの狙撃を成功させるなどアメリカ軍を代表するスナイパーとして知られ、2014年の映画「アメリカン・スナイパー」のモデルとなった故クリス・カイル氏も在籍しています。

艦名の由来となったマイケル・モンスーア2等兵曹(Image:アメリカ海軍)

 2006年9月29日、ラマーディでチームのメンバーと作戦遂行中、どこかから投げられた手榴弾が車両上部の機関銃座にいたモンスーア2等兵曹の胸に当たり、車両の屋根に転がりました。すぐ近くには同僚のスナイパーが2名。遠くへ蹴り出す時間的余裕がなかったので、仲間の命を守るため、モンスーア2等兵曹は「グレネード!(手榴弾)」と叫んで周囲に危険を知らせ、とっさに手榴弾の上にうつ伏せで覆いかぶさりました。ボディアーマーは装着していたものの、手榴弾の爆発エネルギーを全て受け止める形になったため、ほぼ即死だったといいます。モンスーア2等兵曹のおかげで、仲間は無傷でした。

 この「我が身を犠牲にして仲間を救った英雄的行動」により、モンスーア2等兵曹には2008年4月8日にアメリカ軍の最高位勲章である名誉勲章が授与され、その死の10年後にはカリフォルニア州サンディエゴのフォート・ローズクランズ国立墓地へ埋葬されました。また、モンスーア2等兵曹のSEALs選抜訓練同期生(第250期BUD/S)のメンバーにより、カリフォルニア州の海軍特殊戦センターに記念碑も建立されています。


 式典には海軍水上部隊司令官のリッチ・ブラウン中将のほか、艦の命名者として、モンスーア2等兵曹の母親も出席。総員乗艦の命令を出し、亡き息子の名を冠した先進のステルス駆逐艦の門出を祝いました。









 ズムウォルト級駆逐艦は、これからのあるべき水上艦艇の形を模索して開発された、アメリカ海軍初の本格的ステルス戦闘艦です。通常の船とは異なる海面を切り裂くカッターの刃のような形をした艦首をはじめ、レーダー波を効果的に受け流すために各部に突起らしい突起はなく、まるで粘土のかたまりをヘラで削ぎ落としたような艦型。まさに「異形」という言葉がふさわしい姿です。


 その独特の姿から「鍋のふた」とか「ペーパーウエイト」と俗称されるズムウォルト級駆逐艦は、中身もまた先進的なシステムを取り入れています。搭載されたガスタービン機関で最高出力78メガワットの電力を生み出し、それにより推進用動力と戦闘システムを含む艦内の全電力をまかなう統合電気推進システム(Integrated Power System=IPS)を採用。レーダーシステムも従来のイージスシステムを凌駕する性能を持つAN/SPY-3を装備し、広い索敵監視能力を持っています。

 兵装はミサイルなどを発射するVLS(垂直発射システム)のほか、砲身格納式のAGS(先進砲熕システム)155mm砲を2門搭載。ロケット補助推進を採用してミサイル並みの射程距離を持つGPS/INS誘導砲弾(LRLAP)などが使用できることになって「いました」。……過去形なのは理由があります。残念なことにこの砲弾は開発予算が想定を大きく上回り、1発あたりの単価が巡航ミサイルのトマホークより高くなってしまう可能性が指摘されたために2016年に開発が中止され、すでに2015年予算で発注された150発分で調達が打ち切りとなってしまいました。既存の艦艇と全く異なる口径のため、専用の弾薬開発が中止された今では、撃つ砲弾もない「飾り」となっています。今後レールガンに換装されるという構想もありますが、現在のところ実用化の目処は立っていません。

 ズムウォルト級はその先進的すぎる構想ゆえに開発が難航し、予算も大幅に超過。1隻あたりの建造コストは、これまでのアーレイ・バーク級駆逐艦の数倍となってしまいました。このため、当初30隻建造する予定が大幅に削減され、3番艦であるリンドン・ジョンソン(DDG-1002)で建造が打ち止めとなり、海軍は改めてアーレイ・バーク級駆逐艦を増備する方針に変更しています。

 未来を先取りしすぎたため、ある意味実験艦という性格が強くなってしまったズムウォルト級駆逐艦。現状は「技術のあだ花」といった雰囲気ですが、その開発経験が将来の水上戦闘艦のシステムに反映されることを祈りたいと思います。

Image:U.S.Navy

(咲村珠樹)

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