相次ぐ高齢者ドライバーによる事故と子・孫世代が考えるべきこと
おたくま経済新聞 / 2019年5月17日 16時1分
イメージ:高齢者ドライバー(写真ACより)
テレビ東京系で2019年5月15日に放送された「家、ついて行ってイイですか? 【今夜は特別編】予想外の結末…最後に衝撃告白SP」で、2015年に当時15歳だった娘を車の事故で亡くした父親に密着した内容が放映されました。事故を起こした相手は、当時80歳の高齢ドライバーだったといい、昨今相次ぐ高齢ドライバーによる死亡事故と重ね合わせて各所で話題となっています。
放送内で、番組スタッフが密着した男性は、被害者の父親。事故の時の様子や幼い時の娘の姿、その後の様子を語る父親のその姿と、偶然にもロケ日に裁判所へ行っていたという父親から聞かされた、加害男性の死。加害者は刑事裁判で実刑禁固1年6ヶ月の判決を受け、現在は民事裁判中。しかし、相手は2019年の2月に亡くなりました。民事裁判が続く中での加害者の死に、感情のぶつけどころのない父親の様子もそのまま放送され、ネット上でも「この放送は全高齢ドライバーに見て欲しい」などといった感想が相次ぎました。
■ 高齢者の事故の統計
警察庁のまとめによると、2017年における交通事故死者数は、2007年と比較すると、全年齢層で36%、高齢者で27%減少しているものの、高齢者の占める割合は54.7%(過去2番目の高さ)であるなど、依然として高い水準で推移しており、免許人口当たりの死亡事故件数を見てみると、75歳以上の高齢運転者は、75歳未満の運転者と比較して死亡事故が多く発生している事が分かります。
また、75歳以上・80歳以上の免許保有者数はともに増加を続けており、2017年の保有者数は、2007年と比較して、75歳以上は約1.9倍、80歳以上は約2.3倍に増加していることも発表されています。
■ 急がれる法改正と、子・孫世代ができること
自動車は18歳の誕生日以前に免許の取得ができないことは周知の事実ですが、高齢者に対する法的な対応はまだまだと言った感じです。2017年3月12日から、新しい改正道路交通法がスタートしました。その中で、認知症機能検査において「認知症のおそれあり(第1分類)」、「認知機能低下のおそれあり(第2分類)」、「認知機能低下のおそれなし(第3分類)」の3つに分類されていますが、免許証更新時の認知機能検査で第1分類と判定された場合は全員、認知症かどうかの診断を受けてもらうことになり、診断の結果、認知症であることが判明したときは、免許の取消し等の対象になります。
免許の更新は原則3年に1回となっていますが、更新時以外でも一定の違反行為があった場合は、臨時認知機能検査を受けることとなり、医師の診断の結果、認知症であることが判明したときは、免許の取消し等の対象になります。
しかし、第2分類・3分類と診断された場合でも、年齢とともに反射機能や認知機能は確実に低下しています。前述のとおり、75歳以上の免許保有者の事故率は他の年代よりも高い水準となっており、ネット上では75歳~80歳以上の免許所持者は一律返納にすべきという声も少なくないようです。
高齢者の特徴として、目下(年下)の者の意見を聞き入れない、柔軟性に乏しい、新しい機能や操作に慣れるのが難しいなどがあげられます。家族が止めるのも聞かずに車を運転し続ける高齢者も多く、認知症外来などでは「どうしたら高齢の親の車の運転を止めることができるか」という相談も多くあります。
家族の話を聞き入れてくれない場合、自分が認知症であるという認識(病識)がない場合も多く、高齢になるほど自分が正しい判断と行動ができると思っている率も上がります。しかも、移動手段が自動車しかない場合、高齢者のみの世帯であればあるほど買い物や通院など、日常生活に必要な手段として運転が必要と考える高齢者も多い事は事実です。
子・孫世代ができることを考えると、まずは運転に変わる代替手段を確保することが最優先ではないかと考えられます。買い物や通院など、必要不可欠なことは買い物代行や高齢者も気軽に利用しやすいネットスーパーなどの充実や、病院の巡回送迎、往診など。
もうひとつ、免許返納に関するメリットの少なさも返納の少なさに寄与しているかもしれません。「運転経歴証明書」を免許返納時に発行してもらうことで、各自治体が行っている優遇処置を受けることが可能となりますが、正直なところ、タクシー10%割引では割に合わないと思っている人も多いのではないでしょうか。自主返納の手続き自体も煩雑で、簡単に「運転経歴証明書」が発行されないのも自主返納への道のりを険しくしているように思えます。
こうしたことは自治体や政府主導なのが現状ですが、介護保険外サービスの利用、地域支援事業などの互助団体の活用を介護サービスと連携させていく、自主的に互助団体を立ち上げて草の根的に免許の返納のサポートに乗り出すなどの工夫が必要かもしれません。
今後、高齢者は増加の一途。今できること、今やらなくてはならないことは何か。高齢者が運転できないことについてどういった代替案が必要であるかをそれぞれの家族ごとに考えていく必要があるでしょう。
<参考>
テレビ東京系「家、ついて行ってイイですか?【今夜は特別編】予想外の結末…最後に衝撃告白SP」(2019年5月15日放送)
平成29年における交通死亡事故 の特徴等について – 警察庁(PDF)
高齢運転者への生活支援(PDF)
3月12日スタート、改正道路交通法の主なポイント(その2) 運転免許を持つ75歳以上の方へ。 認知機能の状況に応じ診断や講習の機会が増えます。 | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
長寿政策科学研究部 | 国立長寿医療研究センター「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル」
(梓川みいな/正看護師)
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