子供のころ予防接種をうけていても感染することがある「風しん」 池田エライザさんのケースを例に医師に聞いてみた

おたくま経済新聞 / 2019年5月29日 11時54分

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池田エライザさん公式Twitter(@elaiza_ikd)のスクリーンショット

 2019年5月20日に、俳優の池田エライザさんが風しんにかかったことをツイッターで発表しました。この日は折しもTOHOシネマズ新宿で開催された「映画『貞子』公開直前!池田エライザ×貞子デート応援イベント」の当日。貞子が一人でフリップ芸をしながらファンサービスを頑張る一方、エライザさんのツイートには「貞子の呪いなのでは……」と心配するファンたちの声が。そんな「風しん」について、医師のコメントを交えて解説します。

■ まずは風しんについての基本情報

 風しんとは、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症。症状は不顕性感染から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風しんと診断することは困難なことも多くあります。のどや鼻などの上気道粘膜より排泄されるウイルスが、咳やくしゃみなどの飛沫を介して感染するという「飛沫感染」により風疹が移ります。

 感染から14~21日(平均16~18 日)の潜伏期間の後、発熱、発疹、リンパ節腫脹などの症状が出現しますが、発熱は風疹患者の約半数にみられる程度であったりします。また、溶血性連鎖球菌による発疹、伝染性紅斑、修飾麻疹、エンテロウイルス感染症、伝染性単核球症など似た症状を示す発熱発疹性疾患や薬疹(薬によるアレルギー性の発疹)などとの区別をつけるには、風しんのウイルスがあるかどうかは血液検査によって診断されることが多いです。ウイルスの排泄期間は発疹出現の前後約1週間とされていますが、解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、急速に感染力は消失します。

■ 専門医に風しんについて聞いてみた

 今回お話を伺ったのは、名古屋大学医学部附属病院 中央感染制御部の井口光孝医師。感染症の専門医です。筆者が疑問に思ったことを中心にインタビューしています。

―― 池田エライザさんは、「幼少期に予防接種は受けておりましたが、23歳になり抗体が薄れていたのと、自己免疫力が落ちていたこともあり感染してしまいました」ともツイッターでコメントしていますが、抗体が付きにくい人や抗体が減ってしまう人はどのくらいの割合でいるのでしょうか?

(井口医師)
 風しんワクチンを打っても抗体がつかない一次性ワクチン不全の人は約5%います。2回打つことで、少しでも抗体がつかない人を減らすようにしているのが現行の定期ワクチン接種です。2018年の抗体価調査では男女全体でみると2歳以上の全世代で抗体を持っているという目安である、抗体価8倍以上の人が90%以上いますが、男女別にみると35-64歳の男性では90%を切り、45-54歳では80%をも切っており、それだけ感受性のある人が多いということが言えます。ここから感染が広がっていくのです。

2018年度年齢別風疹抗体保有状況:男性+女性(※2019年5月現在暫定値)

 一度抗体ができた後に減ってしまう、二次性ワクチン不全の人がどれくらいいるかは、はっきりとはわかっていないのが現状です。以前は風しんワクチンは人工的に弱くしたウイルスを使った生ワクチンを使っており、一生抗体が残ると言われてきました。しかし、流行がなくなると日常生活で風しんウイルスに遭遇する機会がなくなってしまい、20年程度で抗体が減ってしまうことがここ最近の研究でわかってきました。

※注:厚労省では風疹の抗体価は32倍以上で風疹の免疫が十分にあるとしており、8倍・16倍では、過去の感染や予防接種により風しんの免疫はあるが、風しんの感染予防には不十分。そのため、感染によりお腹の赤ちゃんなどへ影響が生じる可能性がある、としています。

―― 追加接種や抗体価検査はどのタイミングで受けたらいいのでしょうか?

(井口医師)
 妊娠を希望している女性や、その女性と一緒に生活をしている家族(夫、60歳未満の同居家族)、医療従事者、子どもとの接触が多い職業の人、10代後半~40代の女性などは抗体価をはかり、16倍以下ならば追加接種すると良いと思います。

 また、今年度から始まった2021年度までの期間限定で始まった第5期の定期接種で対象になっている昭和37年4月2日~昭和54年4月1日までの間に生まれた男性(2019年時点で42歳から58歳)は抗体を持っている率が特に低いので、積極的に検査を受けて、抗体価が低ければぜひワクチンを接種して欲しいです。

 母子手帳で2回の風しんワクチン接種が確認できない方も、十分な抗体価がない可能性があるため、ワクチンを接種しておくことが望ましいと考えます。

―― 専門医から何か風しん予防に関するコメントがあればお願いします。

(井口医師)
 風しんという疾患自体は元々3割程度はかかっても症状もなく治ってしまうなど、比較的症状の軽い病気ですが、妊娠中の女性が早い時期(20週まで)に風しんにかかると、胎児に聴力障害、心臓奇形や白内障、精神運動発達遅滞などの「先天性風しん症候群」が生じる可能性が高くなるため、風しん予防では「妊娠している女性や今後妊娠する可能性のある女性に感染するリスクを減らす」ことが一番大事となります。

 自分たちが気をつけることで、次世代のリスクを確実に少なくできるという意識で、皆が協力できる社会であって欲しいと願っています。

―― ありがとうございました。

■「先天性風しん症候群」について

 免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群(CRS)と総称される障害を引き起こすことがあります。CRSの3大症状は先天性心疾患、難聴、白内障と言われていますが、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたります。CRS自体に対する治療法はなく、心臓や白内障であれば手術が可能になった生育状態で手術を受けることになるのが一般的です。多くの障害を一度に背負う事になる子もいるので、ワクチンをあらかじめ接種して抗体価を高めておくことがCRSを出さないための一番の予防となります。

 池田エライザさんのように、若い年代の人が風しんにかかることは稀ではありません。エライザさんは無事に回復しましたが、高熱が持続したり、血小板減少性紫斑病や急性脳炎などの合併症により、入院が必要になるケースもあります。

 妊娠の可能性が今後ある人はもちろんですが、その可能性を持つ人たちと接触する可能性のある人すべてが、ワクチンを接種して未来の健康につなげていって欲しいと、切に願います。

【医師プロフィール】
井口 光孝(いぐち みつたか)
名古屋大学医学部附属病院 中央感染制御部
市中病院で内科全般を幅広く研修したのち大学に戻り、感染症専門医として全科と協力し感染症診療にあたるとともに、より良い感染症診療の普及・知識の啓発に努めている。

<参考・引用>
一般社団法人 日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集 2018年版
国立感染症研究所 感染症流行予測調査 風しん抗体価2018年
国立感染症研究所 風疹 発生動向調査
予防接種が推奨される風しん抗体価について – 厚生労働省(PDF)
※見出し画像は池田エライザさん公式Twitter(@elaiza_ikd)のスクリーンショットです。

(梓川みいな/正看護師)

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