ボーイングの有人宇宙船「スターライナー」緊急脱出装置の試験成功
おたくま経済新聞 / 2019年11月6日 10時11分
ボーイング「スターライナー」打ち上げ時緊急脱出試験(Image:NASA JSC/Boeing)
NASAとボーイングは2019年11月4日(現地時間)、国際宇宙ステーション往復用の新型宇宙船CST-100スターライナーの打ち上げ時緊急脱出システムの試験をニューメキシコ州ホワイトサンズミサイル射場で実施し、成功させたと発表しました。
ボーイングCST-100スターライナーは、今後国際宇宙ステーションへの人員輸送を担う民間宇宙船「コマーシャル・クルー・プログラム」に使用される、最大7人乗りの宇宙船。このほかにスペースXのクルードラゴンがプログラムに使用されます。
宇宙飛行で最も危険な場面は打ち上げ時。宇宙船は燃料を満載したロケットともにあり、ロケットが不具合を起こして爆発したり、途中でエンジンが止まってしまったりすると、宇宙飛行士の死に直結します。
そんな状況に陥った場合、宇宙船を速やかにロケットから切り離し、安全に着地させるのが打ち上げ時緊急脱出システム(Launch Abort System)。アポロ宇宙船までのアメリカの有人宇宙船や、現在のソユーズ宇宙船では、ロケットの先端に脱出用ロケットを取り付け、宇宙船をロケットから「引き抜く」方式がとられています。
スターライナーでは宇宙船の下部、ロケットと接続する部分に4基のエンジンが取り付けられています。エンジンの推力は各4万ポンド(約18トン)。これにより宇宙船をロケットから切り離して押し上げ、安全圏へ移動させます。
試験はニューメキシコ州にある、アメリカ陸軍のホワイトサンズミサイル射場で実施されました。打ち上げロケットを模した試験用のタワーに、CST-100スターライナーが据え付けられます。
現地時間の9時15分、脱出用ロケットに点火。宇宙船は上空に舞い上がりました。
点火から約5秒後、高度約1400m付近でロケットの燃焼が終了すると、今度は移動用のスラスターを5秒間噴射し、打ち上げ地点から離れます。上部のカバーも外れてパラシュートが展開し、帰還カプセルからサービスモジュール(機械船)が分離されました。全部で3つあるパラシュートのうち、2つしか展開しませんでしたが、2つでも十分な減速効果が得られるように設計されています。
大気圏再突入時の熱から宇宙船を守るヒートシールドも切り離され、着地時のショックを和らげるエアバッグも展開。試験開始から95秒後、無事にスターライナーの帰還用カプセルは、試験用のタワーから北に約1600m離れた地点へ着地しました。
NASAのコマーシャル・クルー・プログラムにおけるプログラム・マネージャ、キャシー・ルーダース氏は「初期の結果を手にしてワクワクしています。これからデータを詳細に分析して、想定通りシステムが作動したかどうかを確認します」と試験直後にコメントしています。
ボーイングは試験後のステートメントで「今日の試験はCST-100スターライナー、NASA、そしてアメリカの有人宇宙飛行にとってマイルストーンとなりました。詳細なデータを検討して、システムの作動状況を分析しますので、現時点でパラシュートが2つしか展開しなかった件について、原因を発表するのは時期尚早だと考えています。しかしこの結果が12月17日に予定されている弾道飛行試験に対し、大きなインパクトを与えるものではないと現時点では考えています」と発表しています。
ボーイングの発表にもあるように、CST-100スターライナーは12月17日に弾道飛行試験が実施されます。実際の飛行に使用されるアトラスVロケットを用い、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地41番発射施設から打ち上げられる予定。
1962年2月20日にジョン・グレンがアメリカ初の有人軌道周回飛行を行った、伝統あるアトラスロケットのファミリー。現在のアトラスVロケットは改良が重ねられ、すでにエンジンも機体構造も別物となっていますが、再びアトラスが有人宇宙飛行に使われるとは面白いものですね。
<出典・引用>
NASA プレスリリース
ボーイング プレスリリース
Image:NASA JSC/Boeing
(咲村珠樹)
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