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地域によって歌詞が異なる「どちらにしようかな」の民俗学

おたくま経済新聞 / 2021年4月12日 12時11分

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「鉄砲撃ってバンバンバン」な千葉県(道雪葵さん提供)

 複数の選択肢から1つを選ぶ際、なかなか選べない……という場面で口ずさむ「どちら(どれ)にしようかな」という言葉。これも「わらべ歌」の一種と考えられるのですが、その歌詞は地域によって千差万別。ある漫画家が「どちらにしようかな」の地域差を友人に尋ねた思い出を漫画にしてTwitterに投稿したところ、大きな反響を呼びました。

 ゲームでの分岐に限らず「人生は選択の連続だ」という言葉があるように、人間が生きていく上には大小様々な選択を迫られる場面があります。毎回スパッと決断できればいいのですが、世の中そう簡単な選択ばかりとは限りません。

 選択を迷い、どうしようかと思案していると、思わず口にしてしまう「どちら(どれ)にしようかな」という言葉。1音ずつ選択肢を指さしながら、逡巡する考えと同じように指先もぐるぐる……という経験も多いのではないでしょうか。

 この言葉、微妙に節回しがついていることから、いわゆる「わらべ歌」の一種ととらえることができます。わらべ歌というものは地域ごとに受け継げれることが多く、歌詞やメロディは様々。「どちら(どれ)にしようかな」も、冒頭の言葉は同じながら、その後に続く言葉が各地で異なります。

 地域ごとに異なる「どちら(どれ)にしようかな」に興味を持ち、出会った友人に尋ねた際の話を漫画にしてツイートしたのは、漫画家の道雪葵さん。「女子漫画編集者と蔦屋さん」や「アポロにさよなら」のほか、愛犬クーさんとの日々を綴ったトイプードル好き必読の作品「うちのトイプーがアイドルすぎる」最新第3巻が、KADOKAWAより2020年12月に刊行されています。

 漫画に描かれたのは、当時「どちら(どれ)にしようかな」の歌詞に興味を持ち、色々な機会に尋ねていたという10年以上前、飲み会の席上で友人に尋ねた際の出来事。道雪さんにうかがったところ、かなり以前の話なのでご友人の出身地など、記憶の正確性には欠けるとのことです。

「どちらにしようかな」の地域差(道雪葵さん提供)

 漫画の中で登場したのは、定番の「どちら(どれ)にしようかな (天の)神様のいう通り」に続く言葉として「あべべのべ」や「なのなのなすびの柿の種」など。千葉県出身の道雪さんは「鉄砲撃ってバンバンバン」というもの。漫画では「もうひとつ撃ってバンバンバン」と続けたものの、リプライで寄せられた投稿により「なのなのな もひとつおまけにバンバンバン」だったと一気に記憶が蘇ったそうです。

鉄砲撃ちまくりの千葉県(道雪葵さん提供)

 このツイートには、各地の「どちら(どれ)にしようかな」がリプライで寄せられました。「どちら(どれ)にしようかな (天の)神様のいう通り」に続く言葉として千葉や埼玉からは「鉄砲撃ってバンバンバン」が複数寄せられ、山梨出身の方からは「ぶっとしてぶっとして ぶーぶーぶー」という言葉も。

 せっかくなので、弊社編集部でもアンケート調査してみました。その結果は……「鉄砲撃ってバンバン もういっちょ撃ってバンバン 宝箱(千葉県柏市)」「ぽぽぽいのぽうい/ぽぽぽいの柿の種(岐阜県)」「鉄砲撃ってバンバン(静岡県浜松市)」「べべべのべ(静岡県浜松市)」「ゲゲゲのゲ(福岡県)」「アブラムシ(鹿児島県)」という感じ。ちなみに前半の言い回しから違うものもありました。「どちら(どれ)にしようかな 神様のいう通りにすればよくわかります(兵庫県)」。

 この「どちら(どれ)にしようかな」、道雪さんのツイートに寄せられたリプライを見る限り、地域ごとに共通しているようで共通していなかったり、逆に地域をまたいで遠隔地でも共通していたりと傾向が掴みにくい状況のようです。

 なぜ、このように「どちら(どれ)にしようかな」に続く言葉がバラバラなのでしょうか。大学で民俗学を専攻し、宮崎県民俗学会にも所属している筆者が民俗学の知見から考察すると、そこには「言葉遊び」の面と「決めたくない心理」が関係しているように思われます。

 もともと「どちら(どれ)にしようかな」というフレーズが出てくるのは、決定する基準がはっきりしない場面であり、しかも決定することで大きな利益・不利益が発生しにくいと思っている状況。どれを選択しても、それほど気にならないからこそ、運を天に任せるような選び方をしているのです。

 しかし逆に気にならない分、人は選択を迷います。このため、選択を遅らせようとする「決めたくない心理」が働いて「どちら(どれ)にしようかな」の後に言葉を継ぎ足し、フレーズが長くなっていきます。

 つなげる言葉として、ほぼ全ての地域で共通するのが「(天の)神様のいう通り」。ということは、ここまでは選択に迷った際、逡巡する適当な時間として古くから共通認識があったと考えられます。

 ここから後に継ぎ足された言葉は、地域や年代によって様々。ということは「言葉遊び」の面で使いやすいフレーズが選ばれるケースが多くなります。

 たとえば「なのなのな」は、最初の「どちら(どれ)にしようかな」末尾の「な」を重ねることで、リズム感を出したものと考えられます。「あべべのべ」は「あべこべ」という言葉が「なのなのな」のように、リズミカルに変化したとも考えられそうです。

 また「しようかな」が5音なので、同じ5音でリズムを整えやすい「柿の種」も多く出てきます。「鉄砲撃ってバンバンバン」も、地域を問わず出てきますが、これは末尾の「バンバンバン」という3音で、いい加減決めてしまいたいという決断を促すリズムを作り出していると考えても良さそうです。

 選択に迷うからこそ言葉が長くなり、そして小さい子どもの語彙とリズムに合致した言葉が選ばれている傾向が読み解ける「どちら(どれ)にしようかな」。「正しい歌詞」がないからこそ、これからも時代とともに、様々な新しい言葉が継ぎ足されていくのかもしれません。

「どちらにしようかな」の神さまは、どこの地域もやばい説。 pic.twitter.com/mlsRtQAG9O

— 道雪 葵 (@michiyukiaporo) April 6, 2021

<記事化協力>
道雪葵さん(@michiyukiaporo)

(咲村珠樹:宮崎県民俗学会会員)

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