同じ「セーラー服」でもこれだけ違う!学生服メーカーが地方ごとの特色を解説
おたくま経済新聞 / 2021年12月1日 15時0分
セーラー服の地域差4例(Twitterからのスクリーンショット)
ブレザーとともに、中学校や高校の女子制服で定番となっているセーラー服。フィクションの世界でも、学生の象徴としてよく登場します。その記号性の高さから、ブレザーに比べバリエーションが少ないように見えるセーラー服ですが、実は地方ごとにデザインの傾向が違うんです。学生服メーカーがその違いをTwitterで解説しました。
地方ごとに異なるセーラー服のデザイン傾向について、ツイッターにイラスト付きで投稿したのは、株式会社明石スクールユニフォームカンパニー公式Twitterアカウント。多くの学生服メーカーが集まり「学生服の街」として知られる岡山県倉敷市で、昭和初期から学生服を作り続けている会社です。主力ブランド「富士ヨット学生服」は特に有名。
いわゆる「学ラン」と呼ばれる詰襟学生服やセーラー服は、軍服をもとにしてデザインされています。詰襟は海軍士官の黒い冬用制服、そしてセーラー服は水兵(セーラー)の着用する服にスカートを合わせたもの。
詰襟はディティールが少ない分、あまり地方によって違いは見られません。しかしセーラー服は、その特徴である大きな襟(セーラーカラー)の大きさや形に、地方ごとに様々な形があるのです。
たとえば、東京を中心とする関東地方(関東襟)では、襟の幅は肩幅より狭く、胸前に降りてくるラインも曲線的。また、左右の襟が交わる襟下はバストラインより高い位置にあることが多いといいます。大きく開いた胸元をカバーする胸当ては、あったりなかったりと学校によって違います。
同じように、胸前に降りてくるラインが曲線的な札幌周辺(札幌襟)では、襟の幅は肩幅いっぱいまであり、襟下はかなり浅い傾向にあります。胸元が大きく開かないためか、胸当てはついていないようです。
関西地方の学校に多く見られるタイプ(関西襟)は、肩幅まであるセーラーカラーが直線的なラインで胸元に降りていき、バストラインより少し低い位置に襟下がきます。胸元の開口部が大きいため、胸当ては必須アイテム。
最も特徴的なディティールなのが、名古屋周辺の学校で見られるタイプ(名古屋襟)。肩幅まである広い襟が直線的に降りていき、襟下は関西よりさらに低い位置(みぞおち付近)なので、深いV字が特徴。胸当てがなければ下着が完全に見えてしまうので、胸当ては必須です。
名古屋のセーラー服は、ちょっと上の世代の方ならばNHK名古屋放送局制作のテレビドラマ「中学生日記」でお馴染みかもしれません。名古屋の中学校では、この深いV字襟のセーラー服に小判型の名札を縫い付けるというのが定番のスタイルです。
このような地方ごとの違い、普段は育った地域の制服しか目にすることがないため、一般の人は気づかないかもしれません。全国の学生服を手がけるメーカーならではの視点ですね。
なぜ、このような地域ごとの違いが生まれたのか。Twitterの投稿では「恐らく、その土地の洋品店が昔から作っていたセーラー服を、当社を含む制服メーカーがパターン作成の際に参考にしたため当時の型がそのまま引き継がれ、現在まで地域によって似た傾向が出てきているのではないかと推測しています」と語られています。
セーラー服が女学生の制服として採用された当時、服装は一斉に変わったわけではなく、旧来の袴姿から徐々に移行していきました。もちろん制服メーカーも存在せず、仕立て屋さんか、洋裁をやっている人に頼んで作ってもらうのが一般的。細かいデザインの規定もなく、かなり大まかな基準で「生徒それぞれのセーラー服」が学校を彩っていたのではないでしょうか。
株式会社明石スクールユニフォームカンパニーのTwitter担当者さんに話をうかがうと「学生服業界に関わって、私自身が驚いたのが理由の1つです」と解説ツイートのきっかけを語ってくれました。なお、イラストは別のTwitter担当者さんが描いたもので、学生服文化が大好きで入社したという学生服愛のかたまりのような方なんだとか。
担当者さんが驚いた、学生服の奥深さについてもうかがうと「入社以来、学生服業界に関わっていますが、生産の工程、学生服の種類・歴史・流通など1つとっても、今でも驚くことも多いです。今回の件も、セーラー服と一口に言っても様々な種類があることを以前知って、いつか発信したいと思っていました」とのこと。
一見同じように見えるセーラー服ですが「襟の形・色、ラインの種類、首元の深さ、胸当ての有無、袖口の形状などなど……知れば知るほど深いんです。ずっと変わっていないと思われがちな制服ですが、実は様々な文化や歴史背景の影響を受けてきたものだなと感じています」との言葉も聞かれました。
2022年1月に放送が予定されているテレビアニメ「明日ちゃんのセーラー服」のように、フィクションの世界では人気のセーラー服ですが、現実の世界では伝統校を除き、徐々に数を減らしています。この作品でも、実は学校の制服がセーラー服から変わっているという設定で、お母さんは事情を知らず、自身の後輩となる娘に当時と同じセーラー服を手作りして、主人公の明日小路にプレゼントしたもの。
明石スクールユニフォームカンパニーさんでも「セーラー服を新規採用される学校はほぼありません。現在あるセーラー服をブレザーにモデルチェンジされる学校は多いのですが、ブレザーからセーラー服という例はないに等しいです」と、セーラー服の現状を明かしてくれました。上衣の胸元やウエスト部分が浮くため寒さ対策がしにくいのと、女子専用とのイメージが強く、多様性への対応がしにくいことも要素としてあるのかも知れませんね。
ひょっとしたら将来、セーラー服が学生の象徴ではなくなってしまうかもしれません。しかし、ツイートで示された地域ごとの違いなど、これまで培われてきたセーラー服の歴史と文化は遺産として、何らかの形で残していきたいものです。
恐らく、その土地の洋品店が昔から作っていたセーラー服を、当社を含む制服メーカーがパターン作成の際に参考にしたため当時の型がそのまま引き継がれ、現在まで地域によって似た傾向が出てきているのではないかと推測しています。 pic.twitter.com/ZCX0gDgd2b
— 明石スクールユニフォームカンパニー (@akashi_suc) November 29, 2021
<記事化協力>
株式会社明石スクールユニフォームカンパニー(@akashi_suc)
(咲村珠樹)
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