人気の理由は、スマホで配信しているから? 夕希実久『マリーミー!』

おたぽる / 2016年2月10日 16時0分

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「LINEマンガ」で読者数トップと話題の、夕希実久『マリーミー!』が単行本になったので、さっそくチェック。昨年からLINEが「LINEマンガ」で開始したオリジナル作品配信の中でも、特に気合を入れているようだが、その実力やいかに?

 まず、表層から感じるのは、底知れぬ幸せ感だ。一話完結で描かれている物語は、読者に羨ましいほどの幸せ感を見せてくれる。ものすごい幸せ感だ。それと同時に、一種のあざとさも感じるのだ。

 何しろこの作品は、読者層をスマホで読むユーザーに絞って配信している。マンガ配信アプリが普及し始めて数年になるが、まだ試行錯誤は続いているように見える。セックスとバイオレンスがなければ読者は読まない、という時代は終わったと思うが、ならばどういう作品が読者の興味を引くのか。

 そこに求められているのは、まずお手軽さだろう。スワイプしながら、流し読みでも満足できる作品。世の中の大半の人は、マンガアプリで読む作品で人生の哲学を考えたり、衝撃を受けたりはしたくないはず。だから「心がなごむ作品」は、もっとも無難な選択といえるだろう。そこを上手く、計算ずくでやっているあざとさは否めない。もっとも、読者がそれで満足してるならば、なんの問題もないのだけれど……。

 さて、そんな「心がなごむ」物語は「ニート保護法」なる法律が施行された世界。この世界では、少子化対策としてニートは強制的に結婚させられることになっているのだ。

 だが、法律自体は、まだできたばかり。そこで、主人公である国家公務員の秋保心は、試験的実施の被験者として結婚することになる。その相手として選ばれたのが、中学卒業後、ネコと一緒にニートをしていた沢本陽茉梨であった。

 心は陽茉梨の第一印象を「変な女」と評する。とはいえ、読者は別の印象を受けるだろう。こんな可愛い女の子がニートだって?

 突然、結婚することになり、ぎくしゃくする2人だが、陽茉梨が飼っていたネコが急に病気になり病院に連れて行くという「イベント」によって、2人の距離は急接近するのである。そして、陽茉梨が高校にも行かなかった理由が、身体の弱った祖父母の世話をしていたからということも明らかにされる。

 冒頭で説明される、こうした設定をスルーできる人は、その先も楽しんで読むことができるだろう。筆者はできないほうであった。

 いくら身体が弱っているからって、孫が高校にも行かずに面倒を見ると言い出したら「ありがとう」と感謝で終わらせる祖父母がいるか? 僅かな自身の老後のために、人間一人の人生を奪っているようなものではないか? と、『ドカベン』で主人公・山田太郎が高校には進学せずに祖父の仕事を手伝うと宣言して、ライバルたちが説得に来た話を思い出しつつ考えた。

 そして、陽茉梨は祖父母なき後も引きこもって人生を終えようとしていたという設定。

 心は「あなたに今一番必要なのは家族」と告げて、自分が家族になることを宣言。こうして、2人の生活が始まるのわけだが、筆者には残酷な未来しか想像できない。10代後半から20代の人生経験がまったく異なるのに、いったいどこで折り合いがつくのか。支え合う家族ではなく、心が保護者として立ち振る舞うしかないではないか。いずれ自分の安い同情という、やらかしに後悔することになるのではないか……。

 でもね、人気を得ている作品ということは、みんなそんな細かいことにはこだわらず、2人の小さな幸せに感動しているのだろう。スマホの画面をスワイプしながら流し読みを前提にしているから、感動を得られる作品なのだと思った。
(文=是枝了以)

おたぽる

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