由紀さおり「夜明けのスキャット」から 52 年、今も続ける挑戦とは
OTONA SALONE / 2020年5月5日 10時30分
「デビューして50年を超えました。紆余曲折もありましたが、常に自分を追い込み、壁にぶつかればチャレンジを繰り返し、道を切り開いてきました」
日本を代表する歌姫・由紀さおりさんにその生き方について語っていただきました。
歌うことは私の役割です
心が冴え冴えとするほど澄んだ声。一瞬にして歌の世界に誘う歌唱力。博多人形のような美しい顔立ち、きめ細かな白い肌。そして耳にするや、時代の空気さえも彷彿させるヒット曲の数々。由紀さおりさんは、それぞれの時代を歌で鮮やかに彩ってきた、希有な歌い手である。
「人生、順風満帆なときばかりではありませんでした。山も谷もありました。けれど歌うことはやはり、私の運命、宿命だったと思います」
歌の原点は、姉・安田祥子さんのあとを追うように、幼稚園時代に通い始めた「ひばり児童合唱団」だ。
「歌が好きで。歌い手になりたいと意識したのは中学校に上がる前でした。姉はクラシックの世界に進みましたが、同じ道では姉を超えることはできない。私は歌謡曲の世界を選びました。親に相談をして、歌と学業が両立できる中学に入りました」
下積み以前の修業時代だったと、由紀さんはふっと微笑む。
「勉強になるからと、夜は銀座のキャバレーや赤坂のダンスホールなどで、1ステージ2曲歌ったことも。思春期ど真ん中だった私は、そうした店の雰囲気がいやで、泣きながら帰ったこともありました」
この頃、東京藝術大学の声楽科に進んだ姉とともに、CMソングも歌った。「スカッとさわやか、コカ・コーラ」「ハイミー サッサッサッ」「トヨタカローラ」「チョコレートは明治」など、手がけたCMソングは400曲にも及ぶ。悔しい思いもした。
「たくさんCMソングを歌っても無名の駆け出しです。曲を選ぶためだけに歌うこともありました」
そうして選ばれた歌を、本番では大スターが歌い、大ヒットする姿も目の当たりにした。ようやくシングルを出しても、鳴かず飛ばず。
「開店休業みたいな日々でした。そんな中、ラジオの深夜放送の番組『夜のバラード』のテーマソングを歌う仕事がまわってきたんです」
それがのちの「夜明けのスキャット」だった。
「録音の日には譜面しかなく、好きなように言葉をつけて歌ってと言われ、私がアドリブで『ルー、ラー、パー』とつけたんです」
放送するなり、ラジオリスナーから「あの曲は何?」「誰が歌っている?」と大きな反響が寄せられた。
「降ってわいたようにレコード化の話となったのですが、歌詞がない曲なんて売れるわけがないとどこでも門前払い。でも『これは、面白い』と動いてくれたプロデューサーがたったひとりいてくれたんです」
そのプロデューサーとはバイオリニストの高嶋ちさ子さんの父・高嶋弘之さんだ。ご存じのとおり、「夜明けのスキャット」、次いで発売された「手紙」もメガヒットに。当時のお化け番組「8時だョ! 全員集合」にも10年間、ほぼレギュラー出演し、由紀さんはたちまちお茶の間の人気者になった。
「1曲で消えていく人も少なくない世界。ただ歌うだけではお客さまは来てくださらない。いろんなことをやらないと、苦しんでやっと手にした歌手という座を失ってしまう。負けてしまう。歌手としての存在感を示すため、自分のさまざまな面をテレビという大きなメディアで見せることが求められていると思いました」
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【プロフィール】
ゆき・さおり●1969年「夜明けのスキャット」でデビュー。女優として映画、ドラマへの出演や、司会、バラエティなど幅広く活躍。86年より姉・安田祥子と、美しい日本の歌を次世代に歌い継ぎたいと活動を続けている。2019年、由紀さおりとしてのデビュー50年を記念し、「由紀さおり50年記念コンサート2019~2020“感謝„」の全国ツアーを開始、現在も続く。19年11月、旭日小綬章受章。20年6月5日、初主演映画『ブルーヘブンを君に』公開予定。20年10月には『夢の花―蔦代という女―』の再演を予定。近著に『明日へのスキャット』(集英社)がある。
撮影/富田眞光(vale.) スタイリング/吉村由美子 ヘア&メイク/徳田郁子(竹邑事務所) 取材・文/五十嵐佳子
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