がんサバイバーにとって最大の恐怖とは?~セルフレジリエンスのすすめ④~
OTONA SALONE / 2021年9月8日 21時0分
私の、大失敗しながらの実体験に基づいた「がん」と「介護」の乗り越え術。
- がんになった自分を責めるな(前進せよ)
- 自分だけで解決しようとするな(エリート街道を行け)
- 医師はチームメンバー(プロジェクトリーダーは私)
- 「助けて!」と言える勇気を持て(見栄を捨てよ)
の4つのポイントをお話してきました。最後は、
5.恐怖を乗り越える(自分を救うチカラ)
です。
今回はちょっと極端すぎて、皆さんに受け入れていただけるかどうかわかりませんが、思い切って賭けてみます(笑)。
脱毛した姿を撮影した理由
ひとりっ子でおひとりさまの私が、52才で乳がんを発症。54才でがんが再発してから、両親の介護に直面した7年間。
こんな私にとって、最大の恐怖は何だったかというと、それはまさに「がんの再発」でした。
でも再発しちゃった。身体がしびれるような恐怖がやってきたわけです。
そんな状態から自分を救うチカラになったもの、それがこの写真です。
そう、副作用で脱毛した自分のハゲ写真。
「なにをバカなことを」と思う読者の方は多いはず。女性にとって最も大切にしたい「女性らしさ」が失われた写真ですから。
でもこうやって、自分の最悪の姿を笑顔で残したことが、最も自分を救うチカラになりました。
これにはある大物実業家とのエピソードが隠されています。
ボスからのメッセージに大泣き
わたしが初めてがんになった7年前、アメリカ出張から帰国したある男性実業家が送ってくれた雑誌「 People」(2014.8月号)。そこにはこんなメッセージが付いていました。
その井へ アメリカのPEOPLE誌で全米モーニングショー、一番キャスターJoan Lundenが、優雅に、美しく、しかも勇敢に乳がんと闘っている記事を見つけた。
入院中だった私は、送られてきた雑誌の表紙を見て、感動のあまり声を上げて泣きました。
なぜなら、そこには、がん治療で脱毛した女性が美しく笑っていたから。※1
がんになって初めて思いっきり泣いた。
泣いたあと、「すがすがしい。綺麗」そう思い、ふつふつと元気がみなぎってきました。
この時、私は、がんを摘出するために、左胸を全摘出するとともに、転移していたリンパ節も切り取っていました。手術から8日目。
まだ身体にドレーンという血液の排液チューブが刺し込まれていて、ダメージ最強な時。
手術前の抗がん治療で髪の毛はほとんど抜けていました。
そこにこの写真です(泣)
えっ?タコ〇〇?
この雑誌を送ってくれた大物実業家とは、
ホリエモンが逮捕されたライブドア事件のあと、社長に就任した平松庚三さん。
私が最も敬愛する「ボス」です。
世界的企業のCEOを経験し、ライブドア後はITベンチャーを立ち上げ、ハーレーを乗り回し、セスナも機関車も運転する。そして今は、Virginの宇宙旅行の出発に向けて準備をしています。
世界中に部下を持つスーパーCEO。
ボスは抗がん治療で髪が抜けた私を「タコ坊主のねえちゃん」と呼びました。
「いいか、みんなの前でそう呼ぶぞ」
「みんな、お前を心配してる。だからその頭を笑い飛ばすぞ」と、真剣なまなざしで言いました。
これで一気に気が楽になった私は、「タコ坊主」と呼ばれるたびにゲラゲラ笑い、そんな私を見た仲間もゲラゲラ笑ってくれました。
おかげで、オフィスに行くのが楽しかった。
ボスと商談に出かける前、
「いいか、クライアントから心配されたら、治療で髪の毛をなくしたけどシャンプーが2滴ですむようになった、と言って笑うんだぞ」
また真剣なまなざしでそう言いました。
ボスの予想どおり、取引先の皆さんは
「だいじょうぶですか?」と心配そうに声を掛けてきた。
私はすかさず、
「シャンプーは2滴ですむし、顔を洗うついでに頭も洗えるんです。まつ毛も無いからマスカラも減らないので便利になりました」
そう笑顔で答えました。
皆さん、「そうなんですか?」とびっくり。
髪の毛が後退しつつある取引先の男性は、「いつかまた生えてくるんだよね? 僕から見たらうらやましいよ」
と言って、笑って下さいました。
ボスも笑ったけど、私が一番笑った。
→取引先にあとから教えてもらったのですが、「本当は、すごく弱々しくてなんて声をかけていいかわからなかった」そう。
あちゃ(汗)
最大の恐怖から自分を救う
こんなふうにして自分の心も周囲の人の心もほぐしていきながら、仕事と抗がん治療の両立ができている、そう思っていたら、翌年、全摘した左胸に局所再発しました。
一番恐れていた再発。
また同じ治療が始まる。
また髪の毛が抜ける。
「でも1回経験したから何が起きるかわかる。だから怖くない」
「大丈夫」
そう自分に言い聞かせて、再びがんの摘出手術を受け、また強烈な抗がん治療を受け始めました。
2回目はものの見事にツルツルに。
でも、もうみんな「タコ坊主のねえちゃん」と笑ってくれなくなった。
なぜなら「再発=もうおしまい」、って思われちゃったから。
その上、治療で使った薬の副作用がひどくてオフィスに出勤できなくなりました。
仲間と過ごすことができなくなり、ゲラゲラ笑えなくなった。
そこで思い出したのが、あの雑誌のこと。
あのキャスターみたいに写真を撮ってみよう。
最悪の状態を笑顔で撮って、自分で元気になろう、自分を救おう。
そう思い、カメラマンに撮影してもらいました。
キャスターと同じ、白いシャツにピアス。
完全にマネっこ(笑)
この写真を、介護前でまだ元気だった両親や、親しい友人に見せたら「いいね」と言ってくれたので、自分の誕生日に恐る恐るfacebookに出してみました。
健康な皆さんはどう思うんだろう?と、恐る恐る。
ハゲ写真の意外な反響
そうしたら、
「きっとたくさんのがん患者さんのチカラになるよ」「その強さに勇気をもらった」 とコメントがあって。
「あれ?私と同じだ!」 と。
あの時、キャスターの写真を見た時に私が感じたこと、それをそのまま健康な友人たちが感じてくれている。
がん患者じゃなくても同じことを思うんだ、それがわかって、このハゲ写真をがんの支援団体を通じて出していくことにしました。
もともとは、自分の心を奮い立たせるために、自分で自分を救うために撮った写真ですが、
今では、
- どこかにいる、乳がんになりたての患者さんで、「治療が怖い」と思っている方
- どこかにいる、髪を失うのが怖くて、抗がん治療を拒否しようとしている方(だめだよ)
そんな方たちに、
「ここに抗がん治療のダメージを受けた仲間がいるよ」「だから大丈夫だよ」
そんなメッセージを込めて出しています。
ただし受け止め方は人それぞれ。「こんな姿を出すのは感覚的に信じられない」「見せるな」という厳しいご意見もいただきました。
バービーの試み
ところが去年、アメリカのマテル社がハゲ頭のバービーを発表したというを目にしました。※2
マテル社は、「美しさや包括性に対する多様な見方を反映するため、新シリーズのバービー人形を発売する」
というメッセージを出しています。
世の中の意識が少し少しずつ変わってきたのは間違いない、と感じています。
皆さんへのメッセージ
私は現在、がんの治療を続けながら、たくさんの方のサポートを受け認知症の母の在宅介護をしています。
また社会活動として「セルフレジリエンス/逆境から自分をしなやかに救うメソッド」を実験心理学者やメディカルスタッフと共に研究・開発しています。
社長業22年の間、サイバー防衛やセキュリティ開発の仕事を主にしていたので、仲間も取引先も男性ばかり。30~40代の女性との交流はありませんでした。
ですから、このオトナサローネを通じて皆さんにメッセージを届けられることは、新鮮で、とてもとても嬉しいチャンスです。
この連載では、私の体験に基づいた乗り越え術をお伝えしましたが、「がん」も「介護」も人それぞれ。置かれた状況はさまざまです。
だからもし、皆さんがこの先、私のような「がん」や「親の介護」をダブルで経験するようなことになってお困りの時には、いつでもコンタクトして下さい。
ぜひ一緒に解決策を考えてまいりましょう。
≪セルフレジリエンススペシャリスト 大穂その井さんの他の記事をチェック!≫
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