乳がんを見つけ、寄り添ってくれた。夫ではなくゲイの恋人が
OTONA SALONE / 2021年8月28日 20時0分
50歳を迎えたその日、シノブさん(56歳)はこれから自身を待ち受けている出来事をまったく予測できていなかった。ただ「これからは遊びまくるぞー!」と心に決めた。
友だちに誘われて新宿2丁目のゲイバーに行った。
週3~4日のペースで入り浸り朝まで飲むようになった。
そこのスタッフであるミキトさんと恋愛関係になった。
20歳以上年下のミキトさんと、セックスもした。
ミキトさんの手が、シノブさんの胸にしこりを見つけた。
病院で、乳がんの診断が出た、ステージ2b。
さっそく闘病生活がはじまる。
……と、あまりにも盛りだくさんな50代前半を送った。
【40代、50代の性のリアル #18前編】
闘病生活でも、笑顔が絶えなかった
乳がんは30代後半から罹患率が増え、50歳前後でピークを迎える。シノブさんは親戚に乳がん経験者が多いことから、いつかは自分もそうなるだろうと予測はしていた。しかし思ったよりも早かった。これからもっともっと人生を楽しもうと思った矢先だった。
けれどその後のシノブさんは、多くの人が持っているであろう「がんになったら人生も性生活も謳歌できなくってしまう」という思い込みを、鮮やかに塗り替える。
「手術で乳房を部分切除して、抗がん剤治療、ホルモン治療とひと通りの治療を受けましたが、通院にはミキトが必ず付き添ってくれました。夫も子どもたちも、相手が男性というのは知っています。でもミキトの恋愛対象は男性で、日頃は女性装をしているので見た目は女性、まさか恋愛関係だとは思っていません」
家族が非協力的だったというわけではない。精いっぱい支えてはくれたが、昼間は仕事があるため、毎回病院に同行するとなると物理的にむずかしい。
「ひとりでの通院はいろいろ考えてしまって、死への恐怖に押しつぶされそうになるんです。ミキトはゲイバーの仕事が夜からなので、日中の時間を私のために割いてくれました。しかも、常に私を笑わせようとするんです。抗がん剤治療はつらいと聞いていましたし、実際、身体的にはしんどかったですが、楽しくもありました。すべて、ミキトのおかげです」
髪が抜けていく私に、思いがけない提案
がんの診断がついた時点でシノブさんが想像していた闘病生活とは、まったく異なるものとなった。
「乳房にメスは入れるし、そもそもミキトとは20歳以上も違うし、つき合いも始まったばかりだし……これはお別れだろうと私は思ったんです。でも、ミキトの口からそんな話は一切出てこなかった。若い人にとって病気は身近ではないですし、心中では戸惑いもあったと思うのですが。治療にあたって、医師からショートヘアにすることを勧められました。抗がん剤治療で髪が抜けるようになると、ロングヘアのほうがショックが大きいからです。ミキトにそのことを話すと、美容室に付き添ってくれました。断髪式だといって、笑いながら何枚も写真を撮ってくれました。美容師は友人なのですが、私たちを見て泣き笑いしていましたね」
抗がん剤治療がはじまって2週間、脱毛がはじまった。テレビで見たことがあるのと同じように、ごっそり抜けた。わかっていたこととはいえ、受け入れ難かった。髪を洗い、ドライヤーをかける。そのたびに髪は抜けていく。涙が止まらなかった。
「その様子を見て『つらいんだったら、いっそ坊主にしよう』といってくれたんです。私、このときも思わず笑っちゃって」
母親のほうが年齢が近い相手とのセックス
勧めに従い、シノブさんは思い切ってスキンヘッドに。3日に一度、ミキトさんが頭を剃ってくれた。それ自体がとても大切な時間だった。ただ、シノブさんには心配ごとがひとつ。
「坊主になった私を抱くことができるのかな? って……」
ここで性生活について振り返ってもらおう。そもそもの出会いがゲイバー、ということはミキトさんの恋愛対象は男性だ。
「そのうえ私は50代に突入していて、ミキトはまだ若い。お母さまのほうと年が近いんですよ。最初は恋人になる可能性すらまったく考えていませんでした。でも最初からお互いに意識していたのか、気づけば惹かれあって関係ができていた。ミキトには躊躇があったようです、自分は女性として生きたいと思っているのに、女性である私を好きになったら”男に戻ってしまう”のではないか、と」
はじめてのセックスのとき、ミキトさんは戸惑っていた。これまでに女性とセックスをしたことはある。気持ちとは裏腹に、身体が反応しなかった。そのたびに相手の女性を傷つけ、自分もまた傷ついてきた。
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