ここまで他人に頼んでいい。「助けられぢから」が生命を分ける【大穂その井#9】
OTONA SALONE / 2021年9月25日 12時2分
52歳で突如としてがんが見つかり、同時に親の介護も担うこととなった大穂その井さん。ご自身の体験を話してくれました。好評の内容を再配信します。
真剣に「助けて!」と伝える。2回目でうれし泣く
誰にも相談できないまま悩み抜いて、近くにある役所の出張所を訪ねました。窓口の対応はとても事務的だったので、意を決してかぶっていた帽子を取り、ハゲ頭をさらして「動けないので助けてください」と、ここで2回目の「助けて!」を発しました。
びっくりして奥から出てきた年配の女性が、「だいじょうぶですよ、あなたが病気でも自宅でお父さんの介護をできますよ」
と言ってくれて、その場でうれし泣きました。
お金の見栄を捨て、あらいざらい相談した
在宅介護をセッティングしてくれるケアマネジャーには、見栄を捨てて悩みをすべて打ち明けました。
収入が激減したこと、がんの治療にもお金がかかること。その上で「父がもらう年金の8万円でできる限りのサービスを受けたい」と頼みました。
ひとつだけ条件を出したのは、「おむつ交換」です。そう、親のシモの世話ですね。
どうしてもそれだけはできない。私がやらなきゃいけないのはわかっているけれど、無理です、と強く訴えました。
「はい、わかりました」とケアマネは優しく笑い、「そういうご家族はたくさんいらっしゃいます」と父がもらう年金の範囲内で、おむつ交換を中心に受けられるプランを設計してくれました。
在宅介護は「情報共有の意識」が重要になった
さて、実際に在宅介護がスタートしてびっくりしたことがあります。
それは、1週間に18人の介護スタッフがやって来たことでした。医師、看護師、介護ヘルパー、歯科衛生士、マッサージ師、入浴のためのスタッフです。
介護の手が多ければ多いほど助かるわけですが、朝から晩まで毎日たくさんの介護スタッフとやり取りをして、なおかつ全員に情報共有してもらうためには、家族である私がマネジメントして現場を動かしていく必要がありました。
その時、私は抗がん剤の副作用で思うように動けませんでした。
「私自身も介護してほしい」という状態だったわけです。
がん治療では、6つの診療科にかかり、それぞれの医師とやり取りをしていました。体調が悪い時にたくさんの人とコミュニケーションを取ることはすごくエネルギーを使います。
この難局をいかに乗り切ったか、それがこちらです。
とにかくなんでもかんでも書いたのです。
書くことで、自分の状態を客観的にとらえられて、6人の医師に最も伝えたいことを伝えられました。
そしてこれが父の介護スタッフ18人との連絡ノートです。
このノートには、たとえば「今、副作用で動けないので助けて下さい。荷物を1階におろして外に出しておいてくれますか?」と具体的に書いて、介護ヘルパーさんにチカラ仕事までお願いしました。
返事には「やっておきました! こんなのお安いご用です!」と書いてありました。これがどれほど助かったか。
そう、私の「助けて!」の3回目は、ノートに書いて自分ができないことを父のヘルパーにお願いしたこと。このおかげで抗がん剤治療に専念できたのでした。
父のおむつ交換を一度もしないまま、介護を遂げた
結局、父は在宅介護から1年3か月後に自宅で亡くなりましたが、それもヘルパーさんが見つけてくれました。プロらしく、実に落ち着いた対応をしてくれたので、母も私も動揺することなく父の死を受けとめることができました。
私は、副作用の強い抗がん治療を続けながら、要介護5の父の在宅介護をスタートさせ、そして父を看取ることができた。それも要介護1の母と2人で、です。その上、最後までおむつ交換を1度もせずに、父のお尻を見ることなく、です。
この話をすると、皆さんにものすごく驚かれます。「信じられない!」と。在宅介護への、えもいわれぬ恐れを皆さんが持っておられる。私もそうでした。でも現実はまったく違いました。
「できないので、助けてください」と思い切って言えたことで、たくさんの専門家のチカラを借りることができました。
がんの治療をしながらでも、在宅介護は十分に可能だったのです。
つづき>>>がん患者最大の恐怖「再発」この強敵と向かい合うには
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