どう頑張っても「子どもと生き別れの状態」が続く。それでも前を向く47歳主婦の葛藤
OTONA SALONE / 2024年2月28日 20時1分
「共同親権」を可能にする民法改正要綱が答申されました。この背景には「子の連れ去り問題」があります。離婚を考える親が親権を確保するための監護実績を作ろうと、子どもを連れて姿を消す事象で、海外では「誘拐」と判断される違法行為です。
長年この問題を追いかけてきたライターの上條まゆみさんが、連れ去りの実態を解説します。
【共同親権を考える#2】
住む家すらないのに行政支援がない。だが、離婚に同意すれば親権を失う
このように理不尽な仕打ちを受けるまで、上田茉莉子さん(仮名・47歳)は平凡な専業主婦だった。大学を卒業後、外資系企業に勤めていたが、結婚を機に仕事を辞めた。子どもを2人産み、育児に専念。どちらかというと教育ママだった。夫は子煩悩だったが仕事が忙しく、平日は茉莉子さんが家事と育児をいわゆるワンオペで担っていた。
「夫と不仲とはいっても、休日には家族揃って出かけるなど、ごくふつうの家族だったと思います。上の娘と私は仲がよく、バレンタインデイやクリスマスにはお友だちも呼んでいっしょにクッキーを焼いたりしていました。下の息子は甘えん坊で、よく私の膝に乗ってきていました」
そんな穏やかな日常は、夫による子どもの「連れ去り」によって、一瞬にして崩れた。茉莉子さんが悲しいのはもちろんだが、いきなり住み慣れた家を離れ、転園・転校させられ、友だちと離れ離れになった子どもたちのショックも計り知れない。実際、娘は一時期、不登校になったと茉莉子さんは聞いている。
多くの女性にとって、母親であることは重要なアイデンティティの一つだ。とくに茉莉子さんのように専業主婦だと、なおさらだ。生活のすべてが子ども中心で、友だちづきあいもほぼママ友。そんな女性が子育てを奪われてしまうと、生きている意味を根底から揺るがされる。
お金もない。社宅だったから家もない。子どもを連れ去られているから「シングルマザー」の枠には入らず、受けられる行政の支援もない(シングルマザーなら各種手当があるのに!)。茉莉子さんは、泣くことしかできなかったのである。
つらい日々の中で、これまでの自分に「足りなかったもの」を振り返る
つらくて、どうしようもなくて、この地獄から抜け出す手立てが何かないかと、茉莉子さんはもがいた。ネットなどで情報収集し、同じ立場の仲間を見つけた。カウンセリングの場にも出かけた。さまざまな会合にも顔を出した。たくさんの人の話を聞くなかで、茉莉子さんの中にひとつの覚悟が生まれた。
「私はこれまでずっと誰かに依存して生きてきました。でも、ここからは自立しよう、自分の人生を生きていこう、と決めたんです。いつ子どもたちが私の元に帰ってきてもいいように。子どもたちの誇れる母親であるように。そして再会できたとき、すてきなママだ、と思ってもらいたい」
そこでまず、仕事探しから始めることにした。これまで10数年も専業主婦でいた茉莉子さんが、40も半ばになって自活できるだけの仕事を見つけるのは大変なことだった。まずはパートから始め、少しずつ社会で働くことに慣れていった。
「夫は、私が泣いて実家を頼ると思っていたでしょうね。でも、私はどうしてもそれがいやだった」
おっとりとした風情とは裏腹に、意外と勝気な茉莉子さんなのである。夫は、茉莉子さんの芯の強さに気づかなかった。いや、気づいていたからこそ、先手を打って子どもを連れ去ったのかもしれない。
ようやく就職が決まり、茉莉子さんは自力で部屋を借りた。悩んだ末、離婚にも応じることにした。子どもと暮らしている夫側に親権が認められ、離婚が成立した。
「親権を失うのが怖かったけれど、親権があっても子どもに会えていないのは変わらない。夫の希望を受け入れることで葛藤が下がり、子どもに会えるようになるのなら、離婚してもいいと思いました。実際は、離婚後も夫が頑なに拒否をするので、いまだ子どもたちに会えていないんですけれどね」
肝が据わったのか、このころから茉莉子さんの顔つきが変わってきた。大きく切れ長でエキゾチックな瞳に、自信がにじみ出ている。
3年半もの間、子どもの安否すらわからない。でも前を向いて歩き始める
夫による子どもの連れ去りから3年半。いまだ茉莉子さんは、子どもたちに会えていない。
子どもたちはそれぞれ中学2年生、小学3年生になる。とくに上の娘は、そろそろ父親の支配から抜けて、自分の意志を持ち始めるころだろう。
「いまどきの子だから、SNSなどを始めているかも。いつかつながれるかもしれないと思って、最近は、私自身の日常や子どもたちへの思いをインスタグラムに投稿しています」
理不尽な目にあったとき、どのように対応するかは人それぞれだ。泣いて降参してしまう人もいれば、徹底的に闘いを挑む人もいる、しなやかにやり過ごす人もいる。正解はない。自分自身がどう生きたいか、どこに人生の意味を見つけるかが、肝心なのだ。
「ごくふつうにお母さんをやって、夫や子どものために生きていく未来しか見えていませんでした。私は何をしたいのか、私を主語にして考えたこと、なかった。でも、いまは常に私を主語にしています。きびしいけれど、清々しい」
いま、茉莉子さんは会うたびに笑顔である。そして、とてもきれいだ。
前編>>>『44歳専業主婦がある日突然「子どもと家を奪われて」起きたこととは?あまりの理不尽に言葉もない』
■編集部より
共同親権や離婚、連れ去りに関するご自身のご体験、ご感想がある方、ぜひお聞かせください。
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