「妻とは別れる」既婚医師の甘い言葉にほだされ妊娠してしまった…。34歳看護師の転落劇とは(後編)
OTONA SALONE / 2024年12月10日 21時31分
フジテレビの連続ドラマ「わたしの宝物」(木曜10時)が大きな注目を集め、そして物議を醸しています。主人公である妻の美羽(演:松本若菜)は夫の宏樹(演:田中圭)と結婚生活を送っていたのですが、幼なじみの稜(演:深澤辰哉)の子どもを妊娠、出産するのです。
いわゆる「不倫の子」ですが、夫婦の子と違い、戸籍、慰謝料、養育費という三つの問題が発生します。
今回は筆者の相談者・川原莉子さん(34歳、看護師、年収500万円)の実際のケースを紹介します。夫の悠介(36歳、会社員、年収700万円)が単身赴任中に、交際中の彼(江良圭太、40歳、医師)の子を身ごもってしまった莉子さん。
交際相手である彼には妻子がいるので余計に問題は複雑です。後編では慰謝料、養育費の問題を解説します。
そして2つめは慰謝料の問題。このままでは二重に支払う必要が… 次ページ
慰謝料の問題。このままでは二重に支払う必要が…
2つ目は慰謝料の問題です。戸籍の件で夫に協力を求める場合、夫はありのままの事実を知り、大きなショックを受けるでしょう。夫が望むのなら、莉子さんは精神的苦痛の対価として慰謝料を払わなければなりません(民法709条)。莉子さんは「そうなんですか…」と肩を落とします。
莉子さんは「でも、私だって1人の女性です。できることなら彼と結婚し、家庭を持ち、幸せになりたい」と言いますが、筆者は「二人が結婚するには、前もって離婚する必要があるんですよ」と苦言を呈しました。
もし莉子さんが夫と離婚できても、圭太が妻と離婚できる保証はありません。つまり、莉子さんが望んだからといって必ず、一緒になれるわけではないのです。
妊娠する前、莉子さんは圭太にとって自分が『彼女』なのか、それとも『愛人』なのか、彼の気持ちが分からなかったと言います。彼との愛が本物だという証、それが子どもの存在だと思い、いつも基礎体温をチェックして、チャンスをうかがっていたそうです。「好きな人の子どもが欲しいと思ったの」莉子さんはそう回顧します。
圭太のことが本気で好きだったの、何があっても彼と一緒になるつもりだから、浮気ではなく本気なの。子どもがたまたま出来たわけじゃなく、計画的に授かったの。これらの言い訳は莉子さんの事情であり、夫には関係ありません。むしろ夫の怒りを買って、慰謝料を増額される可能性もありますが、それだけではありません。
ドラマでは不倫相手の男性は未婚でしたが、今回は既婚です。
圭太の妻がこのことを知ったら、どうなるでしょうか?夫(圭太)が別の女性と肉体関係を持ち、子どもを作り、ただ今妊娠中。妻は泡を吹いて倒れるかもしれませんし、怒りに任せて慰謝料を請求してくるでしょう。つまり、莉子さんはこのまま出産した場合、慰謝料を二重に払わなければならないのです。
ドラマでは宏樹(演:田中圭)が美羽(演:松本若菜)の裏切りを知り、彼女を家から追い出しましたが、それ以上の制裁を加えていません。今後、慰謝料を請求する場面はあるのでしょうか?
養育費の問題。いったい誰からもらうの? 次ページ
養育費の問題。いったい誰からもらうの?
最後に3つ目の問題は養育費です。このまま出産した場合、子どもを育てるのにお金が必要です。莉子さんは看護師として年収500万円を稼いでいますが、「それだけじゃ十分じゃないですよ。経済的には不安です」と口にします。
父と子の間には扶養義務があります(民法877条)。筆者は「戸籍上の父親に援助を頼むのが筋ですよ」と指南しました。
もし、夫に協力を頼まず、彼のことを隠したまま、夫婦の子どもとして出産するのなら、戸籍上の父親は夫です。夫の稼ぎを当てにできるでしょう。しかし、夫に協力を頼んだ場合はどうでしょうか?戸籍上の父親は空欄です。もちろん、彼が認知をしてくれれば、戸籍上の父親は彼になるので、養育費を払うのは彼です。しかし、認知の事実は子どもだけでなく、彼の戸籍にも記載されます。
圭太は莉子さんに対して「(妻と)離婚して莉子と一緒に暮らしたい」と甘い言葉をささやいたそうですが、結局のところ、彼が妻に対して別れを切り出す素振りはなく、離婚の話は止まったまま。妻に知られたくない一心で「もう少し待って欲しい」と後回しにされたのです。筆者は「このまま出産しても彼がきちんとお金を援助してくれるかどうか分かりませんよ」と諭しました。
つまり、戸籍上の父親と血縁上の父親を一致させた場合、莉子さんは「養育費なし」で子どもを育てなければならなくなることが目に見えています。
看護師という職業柄、見てきたもの 次ページ
看護師という職業柄、見てきたもの
莉子さんは看護師という職業柄、虐待された子や育てることができない親たちをたくさん見てきているので、自分もそうなるのではないかと不安だったそうです。産むことで「かわいそうな子ども」にしてしまうのではないかと…。親が子どもを殺したという事件をニュースで見るたびに自分を重ね合わせていたのです。
莉子さんは「このままじゃ不幸になるかも。子どもを産んだはいいけれど、援助もなく、お金もなく、働くことができず、途方に暮れることになるかも。私一人なら、まだ人生をやり直せるんじゃないかしら」と考えるように。
そうこうしている間に妊娠3ヶ月目に入り、莉子さんは最終的な判断を下すことになりました。
「この3ヶ月は本当に短かった…。もっともっと彼と話し合いたかったし、妊娠したことが、やっぱりどうしても嬉しかったので。少しでも赤ちゃんと一緒にいたかったら。私の子を手放したくなかったから」
莉子さんはそう言い残すと中絶手術を受けることを決め、翌日には病院に行きました。
それから数日が経過し、莉子さんは筆者にメールを送ってきました。
「圭太はいろいろ言葉を並べていたけれど、行動に移すことはなく、弱い人なんだなと感じました。言ったことを行動に移して欲しかった…せめて半分でも父親としての責任を持って欲しかった」と。
父親以外の男性に子どもを育てさせることを俗に「托卵」といいます。今回の場合、子どもの本当の父親は彼ですが、何も手続をせずに出産すると、戸籍上の父親は「夫」になります。莉子さんが夫に何も話さず、夫婦の子どもとして育てれば、それは「托卵」ということになります。現在、出産時に夫と赤子のDNAを鑑定することは義務付けられていません。そのため、子どもの父親が夫ではないケースも一定数、存在するでしょう。
大人に罪はあっても、子どもには罪はない 次ページ
大人に罪はあっても、子どもには罪はない
しかし、最も大事なのは夫でも妻でも彼でもなく「子ども」です。子どもは誰の子宮のなかで育ち、産まれ、大きくなるのかを選ぶことはできません。大人のせいで戸籍が汚れたり、父親がいない家庭で育ったり、養育費なしで貧しい思いをしたり…たまたま産まれてきた家庭環境が悪かったせいで不幸になるようなことはあってはなりません。大人に罪はあっても、子どもに罪はないのです。
フジテレビの連続ドラマ「わたしの宝物」(木曜10時)では今のところ「子どものため」という視点があまり無いように見受けられます。このドラマは原作がないオリジナル脚本なので現時点で最終回の内容が分かりません。戸籍、慰謝料、養育費などの問題を美羽(演:松本若菜)がどのように乗り越えるのかを最後まで注目しましょう。
≪男女問題専門家(行政書士、ファイナンシャルプランナー) 露木幸彦さんの他の記事をチェック!≫
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