もう、一生セックスしないのかも…。【40代、50代の性のリアル】#1
OTONA SALONE / 2018年5月20日 19時0分
したい・したくない、する・しないーーセックスについての選択や可能性はいつだってこう単純に分けられるものではなく、幅広いグラデーションがあり、その日そのときの気分でも変わるもの、相手あってのことなので、自分のひとりの思いだけではどうしようもできないことも、多々ある。
それは年齢や、これまでの人生経験値にも大きく影響される。40代を迎えた女性たちの、性の現在地はどこにあるのか。そしてこれからどこへ向かうのか。
OTONA SALONEサローネは、「幸せの尺度は、それぞれ違う。大切なのは『自分』が心地いいかどうか。他人や世間から、どう思われるかじゃない」と謳うメディアです。セックスすればきれいになるとか、しないと女として終わるとか、そんな言説はどうでもいい。したいしたくないを自分で見極め、するもしないも自分で決められるヒントを探るための【40代、50代の性のリアル】、スタートします。
セックスがなくても、困らない。
「もう、私は一生セックスしないのかもしれない。最後にセックスしたの、いつだっけ?」
--44歳、未婚のミナエさん。同じく独身の女友だちとの食事中に、そんな話になった。そのときは酔いも手伝いはっきり思い出せなかったけど、帰り道に指折り数えたところほぼ10年。32~34歳のあいだ交際していた恋人としたのが最後だった。
「私はおつき合いしている人以外とはしないので、彼と別れて以降はまったく。40歳を迎えたころから、漠然と『私はこの先も結婚しないし彼氏も作らないだろうな』と思っていて、だとしたら今後、セックスすることはもうないのかもしれない。そう思いながらふり返ってみたら、最後から10年も経っていました。少し驚きましたが、していない状態が日常になっているので、特に困ったことも思うところもないんですよね」
セックスが好きだったことは、これまでに一度もなかった。年齢なりに男性と交際経験があり彼らとはベッドを共にしてきたけれど、いつもどこか冷めていた、とミナエさんは話す。セックスに夢中になる、快感に身を委ねるということがまるでわからなかった。
幼少期の体験が影響?
「一般的にセックスってすてきなことだとされていますよね。でも、私にはあまりそう思えないんです。最中に、自分が天井から見下ろしているような気分になることがあって、そしたらベッドの上でふたりそろっておかしな体勢で絡み合っている。美しくない! って思っちゃうんですよ。なんて滑稽なんだろうって。だから相手には悪いですが、早く終わらないかな、とばかり考えていました」
こう聞くと、とても消極的な女性をイメージされるかもしれない。しかしミナエさんの第一印象は、都会的で洗練された、働く女性。話しにくいと思われる内容も言いよどむことなく、率直な言葉で伝えてくれる。「周囲の人からはサバサバしたキャラだと思われている」と教えてくれた。
「小さいころから女の子に見られたくなかったんですよ。幼稚園に入ってすぐ、男の子2人からスカートめくりをされて、それが心からイヤだった。幼いながら一生懸命考えて出した結論が、スカートを履かなければいいんだってこと。小学校ではもちろん、中高に通っているときも制服以外ではほとんどスカートを履きませんでしたね。家でも学校でも、いわゆる“女の子らしい”といわれることは極力避けていて、家庭科の実習はいつもふざけてごまかしていました。ずっとショートヘアで、小学校高学年になっても毎日外で遊んで真っ黒に日焼けしていたから、よく男の子に間違われましたよ」
恋愛は、遠い世界の出来事
当時の写真を見せてもらった。細い身体はこんがりと焼け、無邪気な笑顔は思春期の屈託とは無縁に見える。思春期にさしかかると、友だち同士で少女漫画を貸し借りすることも増えてきた。主人公の恋愛にドキドキはしても、自分とは違う世界のことしか受け止められなかった。恋愛なんて自分とは関係ない。
中学に上がれば現実に男女交際するクラスメイトが出てくるが、ミナエさんはこれまでどおりスポーツに励み、男子生徒ともよく遊んでいた。彼らから“女の子”として扱われることはなかったという。
「私の恋愛観やセックスについての考え方って、思春期のころで止まっているのかな。好きな人ができたら、手をつなぎたいとは思います。男性と女性とのあいだで起きる接触で、それが一番キュンとするから。それ以上を求められても拒否はしないし経験もあるけど……私にとっては手をぎゅっとされるのが恋愛のクライマックスで、キスもそんなにしなくていい。すごく少女漫画的ですよね。いまどきの中高生のほうがもっとオトナかも」
自分の「キャラ」を裏切れない
それでも、大学生になって初めての彼氏ができた。初体験の相手も、その男性。したいわけではなかったが、「そういうものだ」という思いもあった。いざその場になると、日ごろの“快活なサバサバキャラ”を崩すことができず戸惑いを覚えた。
「こういうキャラを期待されているんだろうと感じると、そう振る舞ってしまうんです。これは、いまでも変わりません。20代のときつき合った彼も、風俗店に行ったことを平気で私に話してくるんですよ。彼氏彼女になる前からそういう話を聞いていて、私がそれに対して好奇心からアレコレ訊いたからだと思うんですが……でも、それも“ミナエはこういう話を面白がるキャラだ”と思われているのを感じたからなんですね。本音ではイヤだったけど、いえなかった。結局彼は『僕のことそんなに好きじゃないでしょ』といって去っていきました。そりゃそうですよね、彼の気持ちもわかります」
その後も性的な物事とは距離を置いてきたミナエさんだが、お話を聞いていても「セックスから逃げている」とは感じない。むしろ、その距離感を主体的に選んできたように見える。
男性の身体がどうしても…
「それは私がセックスを好きになれない理由が、痛い思いをしたからとか、これまでの恋人たちのテクニックがイマイチだったからとか、そういうところにはないからでしょうね。理由は、私の中にあります。あの……実は、男性の身体に興味が持てないんですよ」
それは、マッチョな男性が好きじゃないとか、太りすぎている肉体が受け付けないとか、そういうこと?
「いえ、なんていうかフォルムが好きじゃないんですよ。絵画や写真作品などを見ても女性の肉体は曲線的で美しいなって思うし、年齢関係なくすてきだと思う女性はたくさんいます。同性愛というわけではないんですが。男性の場合、ゴツゴツと骨ばってきたり体毛が濃くなったりすると、生理的にパスしたくなっちゃう。これもスカートめくりに起因しているんですかね、まだ子どもでしたけどあの乱暴さとかマッチョな感じとかに拒否感が出てしまって」
だから、男性の肉体をダイレクトに感じにくい「手をつなぐ」がミナエさんにとって心地いい性的接触の、上限になるのかもしれない。
性別を意識したくない
「少女漫画に出てくる男の子とか、舞台俳優とかは大好きです。彼らの世界はそこで完結していて、私はそこにいないから。ファンタジーなんですよ。少しでも生身の男性っぽさを感じると、気持ちが引いてしまいます。肉体面でも精神面でも男性性を感じたくないんです。それと同時に、男性に私のことを女性だと意識してほしくもない。仕事でもプライベートでもお互いに性別を意識しない距離感を保ちたいです」
美意識、という語が思い浮かぶ。ミナエさんのなかに美しい/美しくないを分けるラインのようなものがあり、美しくない側に判別されると受け入れられない。身勝手だと思われるかもしれないが、ミナエさんは男性に対して面と向かって拒絶を示すわけではない。男性性の封印を求めることもしないし、もとより封印できるものでないことも知っている。それを受容できない自分を熟知しているだけではないか。
一方、男性、女性ではなく“一個人”として接してもらうため、まずは自分からそれにふさわしい振る舞いを心がけてもいる。そうやって自分にとって居心地のいい状態を作り上げていっているのだろう。
「終わり方」へのこだわり
「きっと自分のことが好きだからでしょうね。自分が大事。それもセックスが好きになれない原因のひとつかな。セックスって、男性が射精すれば終わりじゃないですか。女性がどれだけ満足しているかとか、このあとどうしたいかとかはあまり考えられず、男性が終わった時点でセックスも終了。女性が主導権を握ることもあるんでしょうけれど、結局、最後は男性の都合で決まるって、なんかヘンだと思っちゃう。たとえば食事をしていて、一方が食べ終わった時点でもう一方を待たずに勝手に席を立つってことないですよね。私、何ごとも終わりはきれいにしたいんです」
これもまた美意識なのだろう。ミナエさんはこうしたいろんな要素をもとに、いまの自分にセックスは特に必要ないと見極めているようだ。
「ええ、これまでも自分で決めてきたし、これからもそうしていくと思います。でも40代になってから、セックスがそんなに気持ちいいことなら、それを知らないまま終わるのも女性として生まれてきたのにもったいないのかな、という思いがふと胸をよぎるようにはなりましたね。だけど、やっぱり私にとっては親しい人たちと楽しく遊んだり食事したり、ひとりでぼーっとしながらあれこれ考えをめぐらしたりする時間のほうが大事。少なくともいまはそう思います」
40代、これからのセックス
この先、好きな人ができたらその考えは変わるのだろうか。
「『彼氏を作らない』という気持ちも、44歳になって少し変わってきました。先のことは決めつけなくてもいいですもんね。人生があと50年つづくとして、誰かと出会って交際するようなことがあったら、いままでやったことがないことをしてみたい。たとえば、思いっきり仲良しカップルになってみるとか(笑)。いままでは“サバサバ系”という自分のキャラに合わないとか、自分の美意識に反するとか、そんな理由でイチャイチャしたり甘えたりしたことってなかったんですよ。でも人生で一度ぐらい、ちゃんと恋愛してみるのもアリかもしれませんね」
* * *
する・しない、したい・したくないに翻弄されるのは思いのほか苦しいことだけれど、ミナエさんは自分が欲しているもの、快適な状態にすなおでありつづけてきたため、いま自分が立っている性の現在地に納得している。そんないまがあるから、いつか訪れるかもしれない“ラブラブ期”には仲良しカップルぶりを見せてくれるだろうと思わせてくれる。セックスがあってもなくても、それはハッピーな体験になるにちがいない。
【編集部より】
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