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“夫婦出場”の柔道・廣瀬順子、世界ランク1位に敗れるも東京パラは続いた

パラサポWEB / 2021年8月29日 16時49分

廣瀬順子の実力でもメダルに手が届かないのか――。 柔道女子57kg級、銅メダルをかけた試合で彼女が敗れたとき、記者はそんな思いを抱いた。廣瀬は2016年のリオ大会で、日本の女子柔道で初のメダルとなる銅メダルを獲得。その後も全日本を連覇するだけでなく、2018年の世界選手権で銀メダルを獲得するなど、常に日本女子柔道のトップを走り続けてきた実力者だ。

今大会の目標は「夫婦でメダル」

東京2020パラリンピックの柔道競技2日目に登場した廣瀬は、実力の高さを見せつけるスタートを切る。1回戦、わずか1分5秒で送襟絞による一本勝ち。廣瀬の投げ技を警戒している相手が、うつ伏せに倒れて投げを防いだところを、そのまま襟を持って流れるように絞めにつなぎ、あっという間に一本を奪った。世界のトップレベルにある選手たちは、投げから寝技へのつなぎがスムーズで、相手の体が床につく前に絞めの体勢に入ることができる。廣瀬もまさにその通りの動きをした。初戦でありながら、メダルへの期待を抱かせる試合内容だった。

「2人で強化してきた技です」。試合後の短いインタビューで、そう答えた廣瀬。選手でありながら、廣瀬のコーチとしてサポート役もこなす夫の廣瀬悠(男子90kg級で出場)とともに磨いた技。二人三脚で東京大会を目指し「夫婦揃ってメダルを取りたい」と常に語っていた。その目標に向かって、順調に一歩目を踏み出したように見えた。

しかし、続く準々決勝、この日銀メダルを獲得することになるウズベキスタンのパルビナ・サマンダロワに開始後約30秒で横四方固めによる技ありを取られ、最後は送襟絞で一本負けを喫してしまう。開始からわずか1分25秒のことだった。「寝技を磨いてきた」という廣瀬も防げないほど素早い攻撃だった。

東京パラリンピック・柔道日本代表の廣瀬 調子はいい、苦手相手にも善戦

敗者復活戦に回った廣瀬だが、この試合はわずか7秒で決着をつける。決まり手の大内刈りは、得意の背負い投げとは対をなす技であるために「ずっと練習してきた」という。キレもスピードも十分で、準々決勝で敗れたのも決して廣瀬の調子が悪いからではなく、相手が強かったのだということを改めて感じさせられた。

銅メダルをかけた3位決定戦。迎える相手は世界ランキング1位のジェイネプ・ジェリク(トルコ)。「これまで一度も勝てていないだけでなく、毎回1分くらいで負けている」と廣瀬の苦手とする相手だ。

開始と同時に、ジェリクは体を大きく沈めながら長い足で廣瀬の足を刈りに来る。廣瀬の視界の外から来るような技で、これまでは毎回この技で投げられてきたが、この日は足を引きながら上から体重をかけるようにして防ぐ。「この5年間、ずっとこの対処法を練習してきた」と話すだけあって、タイミングの読みも完璧だ。

そして開始約2分、隅落としで技ありを先取する。しつこいジェリクのしかけに、やや後手に回り始めたように見えた時間帯だったので、ペースを取り戻すには絶好のタイミング。投げからそのまま寝技につなぐ動きもスムーズで、やはり調子は良いと感じられた。

何度も足元に潜り込んでくる相手の技を、ほぼ完璧なタイミングで防ぎ続ける廣瀬。だが、試合時間が残り30秒を切ったところで、相手の足が引っかかり不完全な形ながら技ありを取られてしまった。

3位決定戦を戦う廣瀬 世界の急速なレベルアップの中で、自分の実力は出し切れた

廣瀬も得意の背負い投と大内刈りを連続で仕掛けるが決まらず、試合はゴールデンスコア方式の延長線に突入。ここでも廣瀬は積極的な攻めを見せる。いつも以上に低く入って背負投げを仕掛け、投げきれないと見るやそのまま寝技に移行。夫婦で磨き上げてきた動きが光る。だが、沈み込みながらかけてきたジェリクの足をかわしたと思ったタイミングで、さらに体ごと投げ出すようにして重ねてきた同じ技がかかり、ジェリクにポイントが入ってしまう。横落による技あり。廣瀬の2大会続けてのメダルが消えた瞬間だった。

試合後、泣きながら廣瀬と抱き合うジェリク。感極まってインタビューにも応えられないほどの喜びだった。それだけ、この試合が厳しかったということだ。世界ランキングのトップに君臨する彼女の実力をもってしても、パラリンピックのメダルを取るのは簡単ではないということを改めて感じさせられた一幕である。金メダルに輝いたセフダ・ワリエワ(アゼルバイジャン)と、廣瀬とも対戦した銀メダルのパルビナ・サマンダロワは、ともにパラ初出場。世界は想像以上のスピードでレベルアップを続けている。

「結果的にメダルには届かなかったですが、5年間やってきたこと、今の実力は出し切ったと思います」

試合後にそう語った廣瀬。話は夫の廣瀬悠にも及んだ。

「大会の1年延期が決まり、練習にモチベーションがわかないときも旦那の“明るく楽しい柔道”のおかげで、楽しみながら練習を重ねてこられた。彼がすごく練習してきたのは、私が一番知っているので、力を出し切れるようにしたい」

翌日に出場する廣瀬悠のサポートに気持ちを切り替えていた。二人三脚のパラリンピックは、まだ終わっていなかった。

edited by TEAM A

text by Shigeki Masutani

photo by Jun Tsukida

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