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金正男氏に酔っ払った叔母・金慶喜氏が盗聴承知で深夜長電話

NEWSポストセブン / 2012年6月3日 16時0分

 4月15日、「金日成生誕100年記念軍事パレード」の壇上に現われた金正恩の横に立っていたのは、これまでほとんど露出のなかった崔竜海という人物だった。故金正日の義弟・張成沢の最側近といわれてきた崔竜海は、4月11日の党代表者会で党政治局常務委員、党中央軍事委員会副委員長に選任され、党幹部序列3位、軍部序列ではナンバー2という大躍進を果たした。

 上司だった張成沢を押しのけたこの人事は、一体誰の意向だったのか。崔竜海人事から新たに始まった北朝鮮権力闘争の構図を、関西大学教授の李英和氏が解説する。

 * * *
「状況は不安定に見える」「誰が支配しているのか、長期的な目標が何なのか、はっきりしない」

 4月の北朝鮮によるミサイル発射実験(失敗)に先立ち、アメリカのオバマ大統領は金正恩新体制を指してこのように評した(3月25日)。きわめて興味深い指摘である。金正恩は29歳の若輩で、おまけに政務に疎い。名ばかりの「最高指導者」が内政と外交を切り盛りする、と見る向きはほとんどない。

 それでは、政治を実際に動かしているのは誰なのか。その人物は北朝鮮をどこに連れて行くつもりなのか。オバマ大統領の投げかけた重大な2つの問い。これに答えられないままで、とても北朝鮮分析はできない。

 そこで、「状況は不安定に見える」けれども、北朝鮮権力中枢の内部に可能な限り接近を試みる。

 まず結論を先取りしておこう。筆者が入手した内部情報によれば、現時点で権力機構の中心に鎮座する人物は金正恩の叔母「金慶喜」(65歳)と見て間違いない。これで「誰が支配しているのか」は、はっきりする。

 はっきりしないのは、陰の女帝(金慶喜)が胸中に描く「長期的な目標」だ。まだ思案の最中か、そもそも空っぽなのかもしれない。ただし、短期的な目標なら、はっきりしている。権力欲から出た「政権構想」だ。

 実兄(金正日)にあくまで忠誠を誓う大物幹部を排斥し、自前の側近勢力を早期に整える作業。つまり新たな権力闘争の開始である。

 垂れかけた簾の奥から、金慶喜が幼くして即位した王(金正恩)を操る。そうして自派勢力中心の朝廷を立て、国家の大権を実質的に代行する。李氏朝鮮の時代に幾度となく登場した政権掌握の術策、北朝鮮版の「垂簾政治」とでも呼ぶべきものだ。

 そこで金慶喜による金正恩「政権構想」(朝廷勢力育成)から確認しよう。

 金慶喜の向こう気の強さはつとに有名だ。そんな金慶喜は、金正恩が後継者に内定した翌年(2010年9月)、女性で軍務経験もないのに「大将」に就任した。まさに怖いもの知らずの「女将」だ。

 金慶喜の傍若無人ぶりについて、筆者は驚くべきエピソードを密かに知り得た。金正日電撃訪中(2006年1月)直後のことだった。

 金慶喜は北京に長期滞在中(2001年成田拘束事件で家出中)の金正男に国際電話をかける。たいていは深夜で、金慶喜が酒に酔っ払った深夜だ。金正男の電話は各国情報機関に盗聴されている。そんなことは百も承知、まるで「よく聞いておけ」と言わんばかりの長電話だ。

 その話題に「金正恩」が登場する。叔母の目から見た金正恩の評価は激辛だった。「こらえ性がない」「根っからの遊び人」金慶喜はそんな不出来な甥っ子の後見人をあえて買って出た。

 金正日の存命中、金慶喜は後見人の中の1人に過ぎなかった。ところが、急死した金正日の代役として、金慶喜が金正恩と「二人三脚」を組むようになる。

 その具体的な兆候が金正日国葬で表われた。出席者名簿では、金慶喜が労働党政治局員の中で筆頭の位置を占め、公式序列上でも5番目に名前が読み上げられた(夫の張成沢は16番目)。

 さらに、ミサイル失敗前日の党代表者会では、労働党の核心部署である組織指導部(人事担当部署)を掌握する「組織担当書記」に就く。実質的な権力序列で言えば、金慶喜が第2位に付けたことになる。これは金正恩後見体制でこれから起きる地殻変動の予兆だ。

 金正恩の後継内定(2009年1月)以降、金正日の指示を受け、表面的には「挙国一致」(派閥均衡型)の後見体制が築かれてきた。だが、金正恩後継でいち早く積極的に動いた張成沢と新軍部「三羽烏」(李英浩・金英哲・金正覚)の同盟勢力が水面下で権勢を振るった。そのせいで、旧軍部2派(呉克烈・金永春/玄哲海・李明秀)など、他の派閥は地歩を大きく失った。

 それでも、今は亡き金正日の指示通り、4月の党代表者会と国会(最高人民会議)では、各派閥の実力者がこぞって「昇進」を果たした。だが、よく目を凝らせば、「挙国一致」の破局が透けて見える。旧軍部元老グループは、形式上は昇進でも、実質的には権力構図の片隅に追いやられた格好だ(呉克烈は政治局員候補、玄哲海は政治局員)。

 派閥均衡型であれ、新軍部主導であれ、金正恩後見体制は根本的な変質期に入った。行き着く先は金慶喜「垂簾政治」だ。

※SAPIO2012年6月6日号



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