5万本売れた大ヒット「大人の鉛筆」工場見学にも年1万人

NEWSポストセブン / 2012年6月18日 16時0分

 見た目は地味な木製シャープペンが5万本近くの売り上げを達成した。北星鉛筆創業60周年記念で発売された『大人の鉛筆』。作家の山下柚実氏が、ありそうでなかった不思議な商品の誕生秘話を報告する。

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 ただひたすら「字を書く」ことに没頭してしまった。

 指先から鉛筆の記憶がよみがえってくる。鉛筆を握ってしっかり字を書くなんて、何年ぶりだろう。

『大人の鉛筆』。見た目は地味な、木製シャープペン。1本580円はちょいと高いな。実際に買う人ってどれくらいいるんだろう? それが第一印象だった。

 しかし、一見凡庸な筆記具が「ヒット商品」だと聞いて、がぜん興味がわく。いったいどこに、人の気持ちを揺さぶる秘密が隠されているの?

 手にとると無垢の木がふわりと優しい。ノックして芯を出して紙に当てる。サラサラと線が生まれてくる。滑っていくようなスムーズな感じ。文字が文字を生む快感。ごくわずかな摩擦と微妙な弾力とが、先端から伝わってくる。

 北星鉛筆創業60周年記念で発売された『大人の鉛筆』。2011年4月に発売され、「国際文具・紙製品展ISOT」の「日本文具大賞」でデザイン部門優秀賞を受賞し、5万本近く売り上げた。文房具では堂々「ヒット」と言える数字だ。

 芯の繰り出しや金具はたしかにシャープペン。しかし、書き味は鉛筆そのもの。ありそうで無かった不思議な商品だ。とにかく手と指の記憶を揺さぶる触感が新鮮だ。

『大人の鉛筆』を開発するきっかけは何だったのでしょうか?

「工場見学に来た親子がふともらした一言に、ヒントがありました」と同社専務取締役の杉谷龍一氏(35)は言う。

「お母さんが『大人も使える鉛筆があればいいのに』と言ったのです。たしかに今の鉛筆はキャラクターの柄が多くて子ども向けという印象が強いんですよね」

 鉛筆は子どもの文具そんなイメージが定着している。しかし製造側としては、母親の感想を聞き流すわけにはいかなかった。少子化の逆風に加えて100円ショップに中国製鉛筆が並ぶ時代。

「鉛筆の生産量は年々低下して40年前の3分の1まで落ち込んでいます。文字を書かなくなったこの時代に、あえて鉛筆から離れてしまった『大人』に向け、新しい鉛筆を作れないだろうかと。小さい頃、一番身近にあって誰もが馴染んだ道具ですからね」

  対象世代を「大人」に絞りこむという、「文具として初めて」(杉谷氏)の開発コンセプトがこうして定まった。

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