単純ではない冤罪事件 大崎事件に白鳥事件、松川事件など

NEWSポストセブン / 2019年7月8日 16時0分

評論家の呉智英氏

 無実なのに犯罪者とされてしまう冤罪事件は、無罪であると証明できれば、すべての謎と問題が解決するものでもないようだ。評論家の呉智英氏が、大崎事件、白鳥事件などの冤罪事件、下山事件や松川事件などの奇怪な事件を例に、冤罪事件の奥に広がる闇について考えた。

 * * *
 六月二十七日付各紙は一斉に大崎事件の再審取り消しを報じた。

 大崎事件とは、一九七九年鹿児島県大崎町で四十二歳男性の遺体が見つかった事件で、親族四人が逮捕起訴された。四人のうち三人が殺害の事実を認めたが、一人は否認したまま、全員の懲役刑が決まった。その一人が刑期満了後、再審請求をする。第三次請求で地裁・高裁が再審を認めたものの最高裁が再審を取り消したのである。

 弁護側の主張では、遺体男性は自転車ごと溝に転落し出血性ショック死したとする。司法権・警察権が国家にある以上、真相は報道またそれを情報源とする我々に完全には分からない。しかし、弁護側の主張が正しいと思う。一部でしか報道されていないが、罪を認めた三人には軽い知的障害があり、警察でのやりとりが正しく理解されておらず、言われるままに調書署名に応じたらしい。これが大きく報道されにくい理由は説明を要しまい。

 この事件以外にも、事情は異なるが、報道されにくい冤罪事件がある。一九五二年一月に札幌で起きた白鳥事件が好例だろう。札幌市警の白鳥一雄警部が拳銃で射殺され、日本共産党札幌委員会委員長ほか二名が逮捕・起訴された。当時は朝鮮戦争の最中であり、共産党は武装組織「中核自衛隊」を擁しており、犯行声明さえ出した。しかし、射撃訓練に使ったとされる証拠の銃弾の偽造が発覚するなど、警察・検察のデッチ上げが指摘され、再審請求も提出された。結果的に、委員長が懲役二十年、残る二人は執行猶予付きの懲役となる。共産党は冤罪キャンペーンを張った。

 しかし、実行犯とおぼしき人物たちは「人民艦隊」によって支那へ逃亡していた。人民艦隊とは漁船を使って密出入国をしていた組織である。逃亡者たちはやがて支那文革で反革命分子とされ、次いで共産党からは極左冒険主義者として排斥されるようになる。

 こうした複雑な事情を考えると、当事者さえ冤罪だと主張しにくい。

 事件の詳細なドキュメントが二〇一三年に出ている。後藤篤志『亡命者―白鳥警部射殺事件の闇』(筑摩書房)だ。北海道大学卒の著者は地元の放送局に勤め、事件を検証する番組を作った。その取材を単行本化したものだが、なぜかさほど評判にならなかった。

 あとがきで著者は言う。「〔学生時代〕北大で白鳥事件のことになるとOBや先輩達の口が重くなる」「〔ある教授は〕『これが現地北海道の常識なのだから深入りしないように』と強く釘を刺していた」

 白鳥事件の三年前、下山事件、三鷹事件、松川事件と、奇怪な事件が続いた。中でも松川事件は、事件そのものは未解決のまま二十人の被告全員が無罪となった。警察あるいは米軍が企図した謀略事件とされる。全体の構図としてはその通りだろう。しかし、私は学生時代に一世代上の元共産党員から、あれは単純な冤罪ではないんだと聞かされ納得したことがある。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に「週刊ポスト」連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。

※週刊ポスト2019年7月19・26日号

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