西成区男性「借金、犯罪で逃げても警察も債権も追うてこん」

NEWSポストセブン / 2012年9月27日 7時0分

 高齢化率や生活保護受給率が高い大阪・西成区。橋下大阪市長は、西成の活性化に向けて「西成特区構想」を進めている。この西成に、連帯保証人となって人生を転落させた男が逃げ込んできた。作家の山藤章一郎氏が送るルポ。

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 1泊1200円。布団、枕、カラーテレビ、洋服ダンス付きの3畳間。2階に大浴場が備わった〈M〉ホテル。通称〈釜ヶ崎ヒルトン〉。布団はせんべいだが、シーツもカバーもカビ臭くはない。朝から福祉センターに並べば、仕事もある。マイクロバスに連れられた飯場作業で8500円。

 これで何か不平はありますか、ほかに人生で必要なものがありますかと、田中はちいちゃんに訊く。ふたりは共同風呂で仲良しになった。ちいちゃんが応える。

「おうよ、最高じゃけえのぉ、ここは。借金、犯罪で逃げてきとるわしらチンカスを警察も債権も追うてこん。戸籍いらん。住民票、履歴書いらん。人との絆? そげなメンドイもんもいらんけぇ」

 田中氏、45歳、小デブ。東京で小出版社をやるダチの連帯保証人になって人生破滅、ここ大阪・萩之茶屋に逃げこんできた。本名を言わぬちいちゃんは、広島でヨメの兄貴の土建業の連帯保証人になり同じく茨道へ。49歳。のどぼとけが飛びだし、釘みたいに痩せている。

 あらためて確認しておきます。連帯保証とはなにか。田中の場合、ダチが銀行から2200万円借り、連帯保証人になってくれといってきた。「まっ、いいか」とりあえずハンコついた。と、銀行はダチの返済が1週間遅れただけで「返せ」と強硬催促。半年後、「もうだめ。ごめん」ダチは電話1本寄越して姿消した。それから2年、すったもんだの挙げ句、田中は豊島区のマンションを売り、1400万円返済した。

 残り800万。素寒貧のフリー物書きに手も足も出ぬ金額である。ヨメは小2のガキを連れて群馬・館林の実家に帰った。1年経った。田中はヨメの実家近くの公園に、そっとガキを見に行った。長い時間待った。ガキは夕方、現れ、ブランコを4度揺すって帰った。田中は泣く代わりに、おのれに告げた。「わたくし本日ここに力尽き、東京生活引退を決意いたします」

 ポケットに17万6000円也。親に「ちっと東南アジアで暮らす。心配せんでいいから」と告げたケータイへし折り、新宿から4500円の深夜バスに乗り、朝7時45分、なんばに着いた。南海電車に乗ってぷらりと降りた。

 橋下なんたらが西成特区といってる所だ、英国からの留学女をハメ殺した市橋なんたらが、もぐった所だ。目立たないだろう。〈萩之茶屋本通〉と看板のかかったアーケードを行く。朝の8時すぎ、酒の臭いがただよい、カラオケのがなり声が飛び交い、婆さんが、腫れてひびが入った真黒の裸足を引きずっていく。婆さんの脇を男が駆け抜け、後ろを警官が追う。

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