立川談春『たちきり』と響き合うさだまさしのアンサーソング

NEWSポストセブン / 2019年10月15日 16時0分

談春の感動の一夜の内容は?(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、立川談春が独演会に取り込んだ落語と歌の「アンサーソング」という趣向により、異例のカーテンコールが行われた感動の一夜についてお届けする。

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 立川談春と立川志の輔の落語にさだまさしがアンサーソングを披露した武道館公演について以前書いたが、この「アンサーソング」という趣向を談春が自らの独演会に持ち込んだ。8月27日から9月1日まで渋谷のシアターコクーンで行なわれた「三十五周年記念公演 玉響」だ。

 談春の落語に対して音楽ゲストがアンサーソングを披露する六夜連続のイベントで、第一夜はゴスペラーズ、第二夜は尾崎世界観、第三夜・第四夜はaiko、第五夜は斉藤和義、第六夜はさだまさしが出演。僕は第一夜と第六夜に行った。ロビーでは公演パンフレット代わりの文庫本『玉響 -たまゆら-』(210頁/1000円)が会場限定で販売されており、各ゲストとの対談やエッセイ、歌詞などが載っている。

 第一夜、談春は『子は鎹(かすがい)』を演じた。師匠談志の演出を受け継いだもので、カラッとした亀吉が魅力的だ。母が常日頃から「嘘をつくとお父っつぁんの代わりに玄翁でぶつよ」と言っている、という設定は談春オリジナル。父からもらった小遣いで買った青鉛筆で描いた「青空」(=父の思い出)の絵を家に置き忘れて鰻屋に行ったのは、母に届けさせようという亀吉の作戦だろう。

 鰻屋で再会した元夫婦の二人は、明らかに今も惚れ合っているのに、相手の立場を斟酌し過ぎて再び離れそうになる。そんな両親を亀吉が「ちゃんと言えよ!」と一喝し、それぞれの本当の気持ちを相手にぶつけさせる。「別れた男女が再びやり直すドラマ」として濃厚に描いた談春の『子は鎹』に対するアンサーソングは、あなたの温もりをもう二度と離さないと歌う『冬物語』だ。

 第六夜には悲恋物語の『たちきり』を演じた。談春は若旦那が蔵住まいを始めて五十日目に両親と番頭が会話をする場面を創作、ここで番頭は「手紙が百日続いたら夫婦にさせてあげたい」と両親に訴える。

 百日後、芸者置屋に来た若旦那に女将が小糸の死を告げる。女将の実の娘だと強調する演出は珍しい。

「優しい子でした。若旦那と出会えて幸せだったと思います。誰も悪くありません。若旦那と小糸は悪縁だったんです。この家を一歩出たら小糸のことはきれいに忘れて生きてください。小糸には私がいます」

 談春ならではの台詞だ。

 さだまさしのアンサーソングは、すれ違ってしまった相手を今なお想う『かささぎ』。『たちきり』の余韻と響き合って切なく胸に迫る。三本締めの後、異例のカーテンコールも。三十五周年記念公演の千秋楽に相応しい、感動の一夜だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年10月18・25日号

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