山口「つけびの村」事件、噂話の数々が人々を殺したか

NEWSポストセブン / 2019年10月21日 11時0分

この張り紙は大きな話題になった(時事通信フォト)

 6年前に山口県の限界集落で起きた連続殺人放火──人々の記憶からも薄れつつあった事件を取材した『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)という本が、発売早々増刷を重ねる異例のベストセラーとなっている。話題になっているのは、村の住人たちが著者に語る、真偽不明の“噂話”の数々。この不気味な噂こそが、事件の核心なのだという。同書の著者でノンフィクションライターの高橋ユキ氏がレポートする。

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 2013年7月21日、山口県周南市の山間部、わずか12人が暮らす集落で突如、2軒の家が燃えた。焼け跡から70代の男女3人が遺体で発見された。さらに翌日昼、同じ集落から80代男性と70代女性がそれぞれ自宅で殺されているのが発見される。5人は全員撲殺されており、連続殺人放火事件とされた。

「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」

 その頃、集落に住むひとりの男が、事件発生当時から姿を消していた。これは、男の家のガラス窓に貼られていた自筆の川柳だ。

「放火をほのめかす貼り紙」
「不審なメッセージ」

 事件発生当初から、メディアはこのように報じ、警察は男の行方を追っていた。

 だがこの貼り紙は、事件に関する男の決意表明でも、犯行予告でもなかったことが、のちの取材で明らかになる。

◆「犯人は違うと思っている」

 事件発生数日後にその川柳の作者、保見光成(69)は山中に潜伏しているところを機動隊員に発見され、逮捕に至る。のちに非現住建造物等放火と殺人の罪で起訴され、今年8月に死刑が確定した。私が初めてその集落に取材に訪れたのは、事件から3年半が経とうとする、寒い冬だった。

 半数以上が高齢者のいわゆる限界集落。事件でさらに人口が減り、数えるほどしか人が住んでいない。一軒一軒まわり話を聞くと、こんな声が聞こえてきた。

「うちの後ろに火をつけられたことがある。その2、3日後に貼っちょったね」
「貼り紙はだいぶ前に、あそこの家の風呂が燃えたあとに貼られた」

 事件が起こる前に不審火があり、川柳はその後に貼られたのだという。だが、「思うに、その(不審火の)犯人は違うと思うんや」――皆が口を揃え、こう言うのだった。そのうえ、「何回かあったらしいよ」と、不審火は何度かあったとも。

 多くのメディアは誤解していたが、この川柳は「犯人による犯行声明」ではなかった。ある村人の家で不審火が起こったあとに貼られたものであり、しかもその犯人は保見ではない、というのである。

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