三田村邦彦が語る「藤田まことさんの鳥肌が立つほどの凄み」

NEWSポストセブン / 2020年1月24日 7時0分

三田村邦彦が見た藤田まことの凄みとは

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、時代劇に特有なセリフ回し、藤田まことさんと共演するなかで鳥肌が立つような思いをしたことについて語った言葉をお届けする。

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 三田村邦彦は一九九〇年、テレビ時代劇『将軍家光忍び旅』(テレビ朝日系)で主人公の家光役を演じている。撮影は東映京都撮影所だった。

「その前に三木のり平さんとNHKで共演した際、のり平さんが『今の時代劇はセリフを詠い過ぎて現実味がどんどんなくなっている。だからセリフに感情が伝わってこない。だから今の時代劇はダメなんだ』と嘆いていました。詠う。つまり、リアルから離れた、作り込んだ感じのセリフ回しですね。

 そのことに気づいたのが、この『将軍家光忍び旅』でした。

『必殺』の時みたいに自然な感じでセリフを言ったら録音技師さんが『将軍なんだからもうちょっと重々しく言ってくれないとあかんわ』って。それで『これから、この戦いが始まるのか、嫌だな──』と思いました。

 それでセリフを詠い始めると、オッケーをもらえる。『このままだと、のり平さんが言っていたのとどんどん遠ざかっていくな』と頭を抱えましたよ。

 実は『必殺』の時、藤田まことさんも戦っていました。工藤栄一監督はナチュラルでいいんですが、監督によっては詠ってくれという方もいます。

 そういう時、藤田さんは『申し訳ないけど、中村主水はこれでずっとやってきてるので、今さら詠えないのですよ』と。

 それでいて、監督をくすぐるように詠うようなセリフ回しをちょっと入れる。藤田さんは芝居の中で不自然じゃない詠い方ができるんですよ」

『必殺仕事人』は舞台化され、そこでも藤田と共演している。

「舞台は同じ場面の同じセリフでも芝居の間とかがいつも違うんですよね。特に藤田さんはキャッチボールがいつも違う。

 藤田さんは『みいちゃんな、わしはどんな変化球でもサインなしで受けることができる』とよく言ってました。それは映像でも同じです。テストと本番で返し方を変えてくる。その返し方が鳥肌立つくらい凄い。

 たとえば秀が『おっさん、やってやろうじゃねえか』と言ったら主水は『イキがってるんじゃねえよ』みたいなやりとりがよくあるんですが、時に藤田さんは『まあ、頑張りや』みたいにスカしてくる。舞台になると、それが毎回変わるんです。

 仕事人を演じる上で藤田さんが意識されていたのは、『仲良しグループではなく、いつ殺されるか分からない緊張感を持つ』ということでした。それがやはり画面に出るんですよ。

 いろいろ変えていく中で、どの芝居が正解なのか。その答えがないから面白いんですよね。

 ある時、藤田さんと撮影所でテレビを見ていたんですが。その時、緒形拳さんが何かの映画の記者会見で『最高の芝居をした』と言っている。それで藤田さんに『藤田さんは最高の芝居をしたことありますか?』と聞いたら、『そんなもんあるかい』って。『でも、緒形さんは言ってますよ』と言ったら『営業営業。本気でそんなこと思う人なら、こんな長く芝居やってへん。そんなの思ったら役者できへんわ』と言うんです。それを聞いて気が楽になりました」

■撮影/黒石あみ

【プロフィール】かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2020年1月31日号

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