鈴々舎馬るこ 電子チケットで視聴する「ご自宅寄席」を堪能

NEWSポストセブン / 2020年6月27日 16時5分

「自宅で寄席」が当たり前に?

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、電子チケットで視聴した「鈴々舎馬るこ独演会」についてお届けする。

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 コロナ禍で大打撃を受けた落語界では、オンライン有料落語会の動きがどんどん活発化している。立川こしらの「こしらの集い」無観客配信や橘家文蔵の「文蔵組落語会」などは落語家主導の試みだが、「席亭が落語家に出演を依頼する」スタイルの配信落語会も増えてきた。「ご自宅寄席」なるイベントもその1つ。ZAIKOという電子チケット販売プラットフォームで木戸銭(プラス投げ銭)を払って視聴できる。4月25日には三遊亭わん丈、5月2日には桂宮治の独演会を配信した。

 僕が観たのは5月3日の「鈴々舎馬るこ独演会」。1席目は親孝行でお上から褒美をもらった与太郎が飴売りを始める『孝行糖』で、前半もオリジナル演出満載で楽しいが、商いを始めた与太郎の馬鹿デカい声と物凄い形相による押し売り同様の「圧の強さ」こそ、馬るこの『孝行糖』の肝。こんなに暑苦しい与太郎は落語史上類を見ない。

 2席目は、炭水化物と甘味が大好きで太り過ぎて妻に糖質を厳しく制限されている男が、財布を取り上げられ300円だけ渡されて、買い食いしないよう小学生の娘に見張られながら初天神に出掛ける『糖質制限初天神』。屋台の前で自らの半生を振り返り「一生懸命働いてきた私の唯一の楽しみが糖質なんです! 団子1本くらい買ってもいいじゃないですか!」と涙ながらに周囲に訴える場面がバカバカしくも素敵だ。馬るこの代表作の1つと言えるだろう。

 馬風一門の女性前座・鈴々舎美馬が『金明竹』を演じる間に休憩を取った馬るこの3席目は、知ったかぶりの隠居が「なぜレバ刺しが禁止されたのか」の陰謀論をデッチ上げる『レバ刺し根問』。八五郎の「なぜ『鬼に金棒』なのか」「なぜ『知らぬが仏』なのか」「アルマジロはなぜアルマジロというのか」といった質問に答え続ける隠居の屁理屈の可笑しさは馬るこの真骨頂だ。

 4席目は、堀の内のお祖師様を目指して出掛けながら、あまりに粗忽すぎて同じ過ちを何度も繰り返し永遠に辿り着けない無限ループに陥り「タイムループしてる!」と恐怖する男が主役の『堀の内』。「熱いお茶漬けが食べたいのにまともに食べられず諦めておにぎりにして喉に詰まらせて死にかける」のを毎日繰り返すほど粗忽な男という発想が秀逸で、その「繰り返しの可笑しさ」を独自のサゲに結び付けたのにも意表を突かれた。「馬るこの古典」の新たな傑作誕生である。

 充実の4席を居ながらにして堪能できる配信落語会。「密」がタブーとされる状況にあって、落語はこういう生き残り方もできる。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2020年7月3日号

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