スポーツ紙競馬欄の読み方 “褒め言葉の常套句”には注意を

NEWSポストセブン / 2020年7月26日 7時5分

予想には予想紙は欠かせないが…

 誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、競馬新聞における予想の読み解き方についてお届けする。

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 新聞なんてものは見出しを眺める程度で真剣に読まないものだ(すごい決めつけだな)。ところが競馬新聞、スポーツ紙の競馬欄は事情が違う。ファンはここを一字一句、精読する。

 その独特の短い言い回しに注目し、各紙を読み比べてみた。5紙くらい精読するとかなり疲れます。でもこれが面白いんだな。新聞が溜まるからカミさんには訝られるけど。

 前回で触れた不人気馬の評価はそれぞれ濃淡があったわけだが、単勝オッズ1倍台の人気馬は似たり寄ったり。まあ、そうなっちゃうんだろう。

 ある重賞の大本命馬は「スケール大」「展開不問の末脚」「強さ掛け値なし」「能力怪物級」「弱点見当らず」。選挙の立候補者みたいな誉め言葉オンパレード。この馬はちゃんと勝ち切ったからいいけど、もしダメなら任命責任を問われるくらいの強い表現である。言葉の強さで馬券を買うファンが少なからずいるはずだ。

 オッズ1倍台の凡走、あるある。

 東京のダートのマイル戦。3歳以上1勝クラス牝馬限定。単勝1.8倍と人気を集めた馬の評価は「地力上位」、「近走評価」、「素直に実力信頼」。調教も「力強い動きで好調」、「スムーズ、好調」。陣営も「牝馬同士だし、決めたい」と自信満々だった。ところが直線で追い込んだものの、1着(2番人気)、2着(11番人気)の叩き合いに離されての3着完敗である。力強い動きもスムーズさも影をひそめたようだった。

 ある特別戦では1.9倍の1番人気馬。「伸びしろある素質馬」「2勝クラスも通加点」「前走、着差以上の強さ」「器大きく」。この馬が11着と見どころなし。まるっきりのスカ。私はこの馬を買わなかったけど、もし馬券に絡めていたら怒髪天を突いただろう。この点でA紙の予想は立派で、この馬をサクッと無視して2番人気を推していたが、その馬も7着だった。

 そんなもんなのである。

 業界用語は常套句になりがちだ。常套句は思考放棄につながりやすい。「末脚堅実」「切れ抜群」と言われると、こちらも分かったような気になってくる。その馬にしかない特徴があるはずなのに。

 かつて先輩作家から「小説家は俳句や短歌をたしなむべきではない」と言われたことがある。小説は描写のオリジナリティが大事。だから短い文言の多用は良くないと。思考放棄の気配が見え隠れするのだった。

 競馬予想のレトリックは面白い。でも短い文言には注意。「鵜呑み禁物」「思考放棄警戒」で行こう。自分の感性を信じる。馬券代は自分の財布から出ていくのだから。

●すどう・やすたか/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。

※週刊ポスト2020年7月31日・8月7日号

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