全国に2800人以上 いつまで「無給医」を放置するのか

NEWSポストセブン / 2020年8月25日 16時5分

医師といえば高収入の印象があるが…(写真はイメージ)

 新型コロナで病院経営が悪化し、医療従事者のボーナス減が話題となったが、背景にはコロナ前からの“歪み”もある。まず知っておきたいのが、医師の収入には歴然たる地域差があることだ。

 厚生労働省の分科会が示した「医師偏在指標」(*)によると、全国で医師が最も多いのは東京(329.0人)、最も少ないのは岩手(169.3人)。一方、厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2019年)では勤務医(男性)の平均年収は、東京が約1107万円(平均年齢40.6歳)に対し、岩手が約1739万円(同59.6歳)と大差がついている。

【*人口10万人当たりの医師数をベースに、地域の医療需要と供給体制を勘案した指標。単位は人数で表わされる】

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう指摘する。

「医師が多い東京では、一度辞めると良い転職先がない。薄給でも、キャリアに箔をつけるため都内の名門病院で働き続ける人もいる。一方、優秀な若い医師は技術や能力に見合った待遇を約束され、地方の医療機関に流れる動きがある」

 優秀な人材が流出した都心の医療現場では、「良い人材が集められず患者が呼べない病院ほど、報酬を得るために無理をしがちです。本来は不必要な手術を行ない、事故を起こすケースもある」(上医師)という。

 土地代や人件費など固定費が高い都心部の病院経営はとりわけ厳しい。そうした状況下で、近年問題視されているのが、「無給医」の存在だ。

 文科省の調査(今年2月公表)によると、全国108の大学病院のうち半数以上の病院に2800人以上の「無給医」がいるとされる。

「無給医の多くは大学院生です。戦力になる上、学生であることを理由に十分な給料を払わずに済む。病院経営には都合がいい存在です。院生の間の数年間ただ働きさせて、終わればクビにするケースもある」(上医師)

 コロナ禍の現在、無給医を取り巻く現状は厳しさを増している。大学院生として都内の大学病院に在籍中のある30代医師が語る。

「コロナ診療のローテーションに組み込まれ、毎日診療に従事していますが、時給は1000円程度。文科省通達後も雇用契約はうやむやにされたままで、危険手当もなく労災にも入れない。常に不安や強いストレスを抱えながら診療しており、仕事に身が入らないと感じることがあります」

 この医師は他の病院やクリニックのアルバイトで生計を立てていたが、「コロナ後は患者減による経営悪化などで、病院側がアルバイト医師を雇わなくなりました。私も収入の柱を失ってしまった」と途方に暮れる。前出・上医師が言う。

「大学病院で働く院生は、今も昔も“アルバイトで稼ぐ”が基本ですが、問題は大きい。非常勤で忙しく働き、大学病院ではただ働きとなると不満やストレスが募る。報酬も満足にもらえず体に鞭打って医療に従事すれば、事故のリスクは高まる」

 日本医療安全調査機構の調査(2018年)によると、「病院内の調査が必要な患者の予期せぬ死亡」は1日1件程度の頻度で報告され、外科医対象の別のアンケート調査では、8割の医師が「医療事故・インシデント(ヒヤリ・ハット)の原因は過労・多忙」と回答している。

 こうした状況でも、無給医をはじめとする現場医師の過酷な労働環境の抜本的な改善策は示されていない。病院経営サイドの意識、医療構造の改革なくして問題は解決しない。

※週刊ポスト2020年9月4日号

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