綿引勝彦さんの美学「主役に失礼だから引かない。負けてたまるか」
NEWSポストセブン / 2021年2月13日 16時5分
映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、先日、亡くなった綿引勝彦さんが語った役者の美学についての言葉を紹介する。
* * *
綿引勝彦が亡くなった。本連載には二〇一四年にご登場、さまざまな演技論・役者論を語っていただいた。
そこで今回は、そんな綿引の「言葉」を改めて紹介したい。
綿引といえばテレビドラマ『天までとどけ』(九一~九九年、TBS)に出演して以降、温かみのあるイメージも持たれるようになったが、それ以前は悪役──しかも、どこからどう見ても恐ろしい悪役を得意としていた。
インタビュー時には、そうした悪役を演じる時に意識してきたことも聞いている。
「僕としては別に『悪』を演じているつもりは全くなかった。『悪』を前に押し出して演じるんじゃなくて、そんなのは後の方に飛んでいて『こういう人間をいかに料理して演じるか』ということです。善悪なんて、意味のないことですよ。
それから、善悪問わず、主役と対等に立っていなきゃいけないと意識していました。自分も立ち役として成り立っていないと、主役に失礼だから。役者にとって、『引く』なんてことは、まずないですよ。みんなそうだと思う。『この人に負けない』『こんな奴に負けてたまるか』そんな想いでやっています」
決して引かない──そんな綿引のスタンスが画面に抜群の迫力をもたらせたのが、映画『鬼龍院花子の生涯』(八二年)だ。ここで綿引は主人公の侠客・鬼政(仲代達矢)を狙う刺客「三日月次郎」を演じ、仲代と壮絶な一騎打ちを展開している。
「仲代さんを狙う刺客の役で立ち回りもあったんですが、僕は殺陣が苦手で。ただ遮二無二やった記憶があります。とにかく力任せにやるしかできなかったから、相手を傷つけたこともありました。仲代さんに対しても、そうです。がむしゃらに行きましたから、危なかったと思いますよ。その必死さが画面に出ていたんじゃないでしょうか」
実は綿引は高校時代に仲代主演の舞台を観て感銘を受け、役者の道に進んでいる。それだけに、東映の大作映画で仲代と一騎討ちする場面を演じることには、万感の想いがあったという。
「こちらは敵役なので『あなたが好きで役者になった』なんて一言も言いませんでした。もう『負けるもんか』という想いで演じていましたね。その後のテレビドラマで共演させていただいて、『あなたの芝居を見て演劇を目指し、「鬼龍院花子の生涯」でお会いした時は、もう胸が張り裂けんばかりの感動を覚えました』と伝えることができました。その時は、『俺もここまでやっとたどり着いたか』という想いがありました」
役者として食べていけるようになったのは、四十歳手前になってから。それまで、やめようと思ったことは何度もあるという。それでも、出演する作品は選んでいた。
「『仕事ならなんでもやる』という人もいると思うけど、僕はそうじゃない。これ、やめようよ……ということは結構あります。金のため、という意識はないです。金は後から付いてくる。金欲しさでやると、ロクなことがないんです」
役者の美学が、そこにあった。
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2021年2月19日号
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