99歳で蛇笏賞受賞 文挾夫佐恵さんのすごい句を選考委員解説

NEWSポストセブン / 2013年6月8日 16時1分

 東京・練馬。桜の季節には大勢の花見客で賑わう並木通りも、今は新緑が目にまぶしい。栴檀の木も薄紫の小さな花を咲かせ、カキツバタが気持ちよさそうに水池にそよぐ。

 この石神井公園にほど近い閑静な住宅街で、99歳の俳人・文挾夫佐恵(ふばさみ・ふさえ)さんは娘夫婦とともに暮らしている。

 100歳を前にしても、下の歯3本を部分入れ歯にしているだけで、飲んでいる薬も一切ない健康体だという文挾さん。生活は規則正しく、朝の9時に起床し、20時には就寝する。食事に好き嫌いはなく、まぐろの刺し身が大好物。チャーハンやカレーなども口にする。お酒は飲まない。

 天気がよければ、長女の恵子さんと散歩もする。ゆっくり時間をかけて、近所の石神井公園などをまわる。そこで感じる四季の移ろいや咲く花たちが、創作の泉となることも多いようだ。

 文挾さんは今年、明治から昭和にかけて活躍した俳人・飯田蛇笏にちなんで設けられ、俳句界最高の栄誉といわれる蛇笏賞を受賞した。99歳での受賞はもちろん、同賞の最高齢受賞者だ。

 選ばれたのは句集『白駒』(角川書店刊)。タイトルは中国の書物『荘子』の中にある「人生天地之間、若白駒之過郤、忽然而已」から採用したという。「天地の間で過ごす人生などというものは、扉の隙間から白馬が駆けるのをのぞき見ているようなもので、ほんの一瞬のこと」を意味する。本句集は文挾さんの第7句集にあたり、92歳から98歳までの456句が収められている。

「最近これといったものが浮かんでこなくなった」(文挾さん)とは言うものの、創作意欲が衰えることはなく、現在も名誉主宰をつとめる俳誌『秋』で毎月5句を発表し続けている。

「俳句は気持ちの拠りどころ。やめようと思ったことは一度もない」(文挾さん)

 蛇笏賞選考委員の一人、金子兜太氏はそんな文挾さんの句を絶賛する。

「高齢になると衰えるものだが、文挾さんは一貫して向上してきた。作品の完成度が高く、気合と格調を、特に諧謔を込めて美しく響かせていた」

 なかでも金子氏が特に素晴らしいという句について、解説してもらった。

【あな踏みし華奢と音してかたつむり】

「思わず踏んでしまった、かたつむり。その殻の音。この句がうまいと思うのは、踏んだときの音感を華奢という漢字で表記し、きゃしゃ、とルビをふって見せている点。殻を踏んでしまってその聞き慣れぬ音に驚いた、という気持ちと、少しおどけたような、華やいだような雰囲気とを見事に組み合わせ表わしている。

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