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〔佐藤優×山口二郎〕岸田政権とは何だったか「宏池会幻想は幻想だった」「消去法で選ばれただけ」

NEWSポストセブン / 2024年9月24日 11時13分

 小泉純一郎さんと竹中平蔵さん(経済学者。第一次~第三次小泉内閣で金融担当大臣・経済財政政策担当大臣・総務大臣)に象徴される新自由主義は、国民の間に格差を生じさせました。もっとも、竹中さん本人は、私との対談(「中央公論」二〇〇八年一一月号)で「私のどこが新自由主義者なのか」と否定していましたが(笑)。

 また人口比率を見ると、戦後生まれの人口は、バブル景気に沸いていた一九八七年に全体の六割、二〇一四年には八割を超えました。すなわち戦争を知らない世代が圧倒的に増え、宏池会を支えた戦争体験者が減り続けたのです。

 さらに言えば、一九九七年に横田めぐみさんの拉致事件が発覚し、被害者の家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)が結成されます。時を同じくするかのように、中国は経済的・軍事的に膨張していきます。こうした北朝鮮と中国の脅威という現実が出てくるなかで、日本は戦後はじめて〝被害者〟の立場に回りました。日本政府は一七人の拉致被害者を認定し、中国に対しては「経済力と軍事力で日本が圧迫されている」と、被害者意識を持つようになりました。

 安倍政権は、この被害者意識を内政・外交に利用しましたが、それはまさしく宏池会路線を支えた前提条件が崩壊したことの裏返しだったのです。

 安倍さん自身にも、被害者意識は内包されていたと思います。安倍さんは、祖父であり第五六〜五七代首相を務めた岸信介さん以来の、右派ナショナリズムの後継者ではあるけれども、彼が折に触れて述べたように、戦後において「まっとうな保守」が抑圧・迫害されてきたとする感覚を持ち続けていたのでしょう。

疑似的冷戦構造(山口)

 ロシア・ウクライナ戦争に続き、二〇二三年一〇月七日、イスラエルとハマス(イスラム原理主義の武装組織)との間で戦闘が始まりました。このような具体的な軍事紛争をめぐり、かつての東西冷戦時代になされた議論の枠組みを再構築するのも「冷戦リベラル」の動きです。今は、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、言わば「疑似的冷戦構造」が議論されているのです。

 特に西ヨーロッパでは、伝統的な西洋文明と異質な文明、すなわち「キリスト教vs.イスラム教」という対立が構造化されました。こうした対立構図を日本国内に置き換えると、ひとつに「伝統的家族像vs.女性の権利を含めたジェンダー平等」があります。ここに、自民党は新たな争点を求めました。

 東西冷戦が終結して一〇年が経過した一九九〇年代末頃から、自民党は歴史修正主義や伝統的家族主義を新たな政治的争点に組み込みました。これは安倍さんの手腕でもあるのですが、バックラッシュ(揺り戻し、反動)を進めていった結果、右派ナショナリストを勢いづけて、安倍政権は支持を集めたわけです。安倍さんの周囲に右派的な人たちが結集しました。冷戦構造の再構築という意味では、それが奏功した。安倍さんは、言わば疑似的冷戦構造をつくったのです。

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