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【中国・日本人学校10才児刺殺事件】中国で充満する社会への不満、中国系メディアが報じた被害者父親の“悲痛コメント”に当局による工作説も 

NEWSポストセブン / 2024年9月26日 7時15分

亡くなった児童が通っていた深圳の日本人学校(写真/Reusters/ AFLO)

 中国で発生した前代未聞の惨劇。なぜ、日本人学校は標的にされ、少年は命を落とさなくてはならなかったのか。社会への不満が渦巻く隣国の近況や、現場に募っていた危機感、遺族コメントに残された謎など、事件の背景を総力取材。 

 9月18日の朝8時頃、中国南東部の大都市・深センの住宅街で、日本人学校に通う男児が中国人の男に刃物で襲われ、刺殺される事件が起きた。犯行現場は学校からわずか200mほどの路上だった。 

「被害男児は在留邦人が多く住む自宅マンションから、家族らとともに、エレベーターに乗り合わせた別の児童や保護者と一緒に徒歩で学校に向かう途中だったようです。目撃者によれば男の子の腹部が大きく裂かれ、内臓の一部が露出するほど大量に出血していた。血だまりの中で、息子を抱えたお母さんが中国語で叫んでいたそうです」(中国在住ジャーナリスト) 

 亡くなったのは、日本人の父と中国人の母を持つ10才の男の子だった。動物とドッジボールが好きな活発な少年で、元気で明るく、素直な性格だったという。 

「男児の父は、上海の大学に留学経験があり、同じく上海の大学に通っていた中国人の妻と結婚。現在は貿易関係の仕事をしており、中国政府と太いパイプを持つ、中国専門の商社に勤めるエリート社員だそうです」(深センの駐在員) 

 無辜の少年が犠牲となった痛ましいこの事件。日本のメディアもこぞって報じたが、中国政府の消極的な広報姿勢もあり、情報は極端に制限されていた。 

 しかし事件から2日後、中国系メディアが被害者の父親のコメントとして「息子は昆虫が大好きで、小さな生き物を見つける特別な力を持った子でした。最初は現地の食事に適応するのが難しかったが、最近では中国料理を好きになり、日本語と中国語を流ちょうに使いこなしていました。彼が突然私たちのもとを去ったことはまったく予想外で、私の心は混乱と無限の悲しみに満ちています」などと、遺族の胸中を報じた。 

 父親の悲痛なコメントに共感が集まる一方、逮捕された44才の犯人が、前科二犯のいわく付きの人物だったことも、被害者への同情を深めた。 

「警察当局が明らかにしたところによれば、2015年には通信設備を破壊した容疑、2019年にはデマを流布した容疑で、それぞれ拘束されています。現在は無職で、容疑を認めているものの、詳しい動機は明らかにされていません」(前出・中国在住ジャーナリスト) 

 人口約1800万人の深センは、中国国内でも出稼ぎ労働者が多いことで知られ、北京や上海に比べて治安はやや不安定。それでも、被害者家族が住んでいる南山地区は比較的、富裕層が住むエリアだという。 

「被害者家族は家賃50万円ほどの駐在員向けの高級マンションに住んでいたそうです。通っていた日本人学校も徒歩圏内で、警備員が常駐し、警察官も毎日巡回していた。学校には日本国籍を持つ約250人の児童が通っており、警備にも力を入れていたのですが……」(前出・深センの駐在員) 

 日本のエリートサラリーマンの子女が通う学校のすぐ目の前で起きた惨劇。しかし、以前から中国国内にはそうした悲劇を招く雰囲気が充満していたという。 

SNS上で“襲撃計画” 

 記憶に新しいのは、今年6月に中国東部の蘇州で発生した事件。日本人学校のスクールバスに乗っていた親子が襲撃され、バスに同乗していたガイドの女性が犯人を制止しようとして命を落とした。現在、中国ではそうした襲撃事件が後を絶たない。 

「日本のメディアは日本人が被害に遭わない限りいちいち報道しませんが、街中で刃物をふるったり、人混みに車で突入したりする通り魔的な犯行は、中国全土で見ると毎月のように発生しています。ここ数年、経済成長が鈍化している中国では、社会に不満を抱える人たちも多い。今回は、国内での愛国教育によって醸成された反日感情により、不満のはけ口として日本人が狙われたと分析する人たちもいます」(前出・中国在住ジャーナリスト) 

 なかでも、“標的となりやすい”と指摘されていたのが日本人学校だった。実際、垂秀夫前駐中国大使も、今回の事件を受けて次のように指摘している。 

《数年前から、いつ起きてもおかしくない状況があった。中国のSNSでは、日本人学校に関する悪意と誤解に満ちた動画が何百本も氾濫している》(『読売新聞』2024年9月20日) 

 中国のSNSでは、深センとは別の日本人学校を標的とした“襲撃計画”も流布していた。 

「日本人への偏見に満ちたアカウントでは、事件発生以前から『(柳条湖事件の翌日にあたる)9月19日に杭州の日本人学校に集結しよう』という呼びかけが拡散されており、児童たちの身に危険が及ぶのではないかと領事館では警戒を強めていた最中でした。また、日本の外務省は中国各地の日本人学校の警備費用として、すでに来年度予算に約3億5000万円を計上していて、現場に危機感が募っていたことが伝わってきます」(外務省関係者) 

 事件の発生により、改めて根深い緊張関係が顕在化した日中両国。そんななか、別の中国在住ジャーナリストは、前述の父親のコメントについて、中国ならではの“ある政治的な思惑”が関与した可能性を指摘する。 

「取材に対応した、総領事館の人間は『遺族は憔悴しきっている』と話していたのに、報じられた父親のコメントには『両国の関係が壊されることを望んでいません』とか『円滑なコミュニケーションの促進』といった、不自然な文言が並んでいるのです。 

 そうした違和感から、中国への敵意を和らげることを狙った当局の創作説や、政府との力関係で遺族が“書かされた”可能性が指摘されています。仮に、中国当局の工作の一部だとすれば、それこそ被害者への冒涜にほかなりません」 

 何の罪もない、いたいけな子供の命が奪われたこの事件。中国政府は「偶発的な個別の事案」との冷淡な立場を貫くが、遺族のため、そして再発防止のためにも、中国政府に説明責任があることは国際社会の共通認識だろう。 

※女性セブン2024年10月10日号 

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