平凡の中にある、気付かれにくい怖さを書きたいと芥川賞作家
NEWSポストセブン / 2013年10月3日 7時0分
わかりやすいものばかり求め、理解できないものを避ける最近の日本人にとって、純文学は縁遠いものとなりつつある。読者には自分なりの解釈を導き出す想像力、読解力が必要となるからだ。
純文学界の新人賞である芥川賞を『爪と目』(新潮社)で受賞した藤野可織氏(33)は、「わかりやすさ」を追い求める日本人をどうみているのか。またそうした中で、純文学や小説が何をどう描くべきだと考えているのか。
──芥川賞受賞作の『爪と目』は純文学ホラーと称され、怖い作品だと評されている。過去の著作も読者に恐怖を感じさせる作風に見えるが、そうしたテーマ設定には何か狙いがあるのか。
藤野:いえ、別に私は恐怖をテーマにして書いているわけじゃないんです。頭に浮かんでいることをそのまま、できるだけ正確に言葉にしようとして書いたら、怖いと言ってくださる人が多いというだけ。最初から恐怖小説を書こうと決意して書いたことはないんです。ただ、恐怖というのはそこらへんに満遍なくあるものだと思うので、自然にそうなってしまうのかもしれません。
──恐怖は満遍なくあるもの?
藤野:恐怖を「非日常」だとは思いません。日常に、身近にあると思います。一見、自分とは無関係な程遠いと思えることほど身近なものだと思うので。
『爪と目』では、真冬に母親がベランダに出た時に、小さな娘が中から鍵をかけてしまってそのまま死んでしまったのではないかという疑惑を書きましたが、死ぬところまでいかなくても、そういうことって意外とごく普通にありますよね。大きな殺人事件であればニュースになるけれど、日常の中にある何気ない恐怖はニュースにもならない。でも、確実にすぐ側にあるものです。
──恐怖を描くのは、非日常ではなく日常だからということか。
藤野:私の場合は、今のところ「平凡な人の平凡なところ」を書きたいと思っています。怖いものを書くにしても、ニュースで大量に報じられる殺人事件のようなものは、私みたいな平凡な人間から見ると、言い方は適切かわからないけれど、やはり“非凡”なことに見えます。だから今まで、殺人事件のようなモチーフは中編では扱ってきませんでした。
──平凡には平凡の怖さがある。それは小説でしか描けないものだと。
藤野:平凡な人の平凡なところが、実はその人の強さだったり怖さだったりすると思う。たとえば、人を傷つけておいて全然それに気が付かない鈍感さ。そういうものは実は誰の中にでもあります。自分の近くにいる人に対して、「この人の鈍感さにほんま腹立つわ」とか、「そんな無神経なことばっかりよう言うわ」とか思うことありますよね。私もそういったことをよく感じます。
-
-
- 1
- 2
-
この記事に関連するニュース
-
芥川賞作家・村田沙耶香が「当たり前」を揺さぶる短篇集
NEWSポストセブン / 2019年12月5日 16時0分
-
芥川賞作家が語る"正義を疑わない人の残酷さ"
プレジデントオンライン / 2019年12月5日 6時15分
-
誰かを傷つけても心は痛まない? 人の気持ちに鈍感な人が…
しらべぇ / 2019年12月4日 11時0分
-
テーマは「特別ではない一日」 日常にある忘れがたい出来事
文春オンライン / 2019年12月2日 11時0分
-
又吉直樹、芸人か小説家かを問われ「どうでもええんちゃうかなって思ってます」
週刊女性PRIME / 2019年11月20日 8時0分
ランキング
-
1アフガン人医師「兄貴を亡くした」 中村哲さん合同葬、会場涙であふれ
毎日新聞 / 2019年12月11日 21時43分
-
2日大、アメフト前監督の解雇撤回 悪質反則問題で和解
共同通信 / 2019年12月11日 19時5分
-
3医師はどんなインフルエンザ対策をしてる?
ウェザーニュース / 2019年12月11日 6時25分
-
4「報道ステーション」世耕参院幹事長のVTR編集を謝罪 富川アナ「誤解を招く表現」
スポーツ報知 / 2019年12月11日 22時46分
-
5【日本の大逆転】GSOMIA騒動は「何も譲らない」日本の“全面勝利” “事大主義”の韓国と“メンツの国”中国の「トリセツ」
夕刊フジ / 2019年12月11日 17時11分