桐野夏生新作 夫や子を捨て夫の愛車で疾走する主婦描いた書

NEWSポストセブン / 2013年11月18日 16時0分

【書評】『だから荒野』桐野夏生著/毎日新聞社/1680円
【評者】福田ますみ(フリーライター)

 私見ながら、毎日新聞の連載小説は面白い。本著者による『魂萌え!』も林真理子による『下流の宴』も、専業主婦の日常に潜む“問題”やそれに翻弄されつつも逞しく生きる様を描き、考えさせられることの多い作品だった。

 本作も専業主婦の物語だ。主人公は46才の朋美。サラリーマンの夫と2人の息子と暮らしていて、傍目から見れば幸せな部類のはずだが、家の男どもに心底うんざりしている。できちゃった結婚の夫は妻に何の関心もなく、若い女の尻を追いかけている。ガールフレンドのアパートに入り浸っている長男も、ゲームフリークの次男も母親を一顧だにしない。

 46才の誕生日を誰も祝ってくれないので、自分でレストランを予約し、夫や息子たちの尻を叩いて出かけようとする。ところが男たちは、着飾った朋美を「頭のおかしいおばさん」「だせえよ、最悪」「京劇だ」と嘲笑う。レストランでも悪口三昧で、「誕生日おめでとう」の一言もない。ついにブチ切れた朋美はレストランを飛び出し、そのまま車で高速道路を西に疾走する。二度と再び、夫や息子たちの元に戻らないと決意して。

 家出した朋美が独身の女友達と本音トークをする場面が考えさせる。家族への恨みつらみをぶちまける朋美に、女友達は、「主婦の身分が羨ましい。私も子供を産みたかった」とつぶやく。「子供がいても、孤独は癒されないよ」。朋美がそう返しても、「不全感がある。人生でし忘れたことがあるような気持ちがある」と言う。なんだかんだいっても、独身女には羨ましい主婦の身分。しかし朋美はその身分をすっぱり捨てて、あえて荒野に立とうとする。

 傑作なのは、レストランで置いてけぼりを食った夫と子供たちのその後だ。最初のうちこそ、うっとうしいダメ主婦がいなくなってせいせいしたと強がりを言うが、待てど暮らせど帰らない朋美に、家の中は崩壊寸前となる。

『魂萌え!』も主婦の反乱を描いた作品だったが、本作のほうがもっと徹底している。新聞小説の枠を外して、朋美にもっともっと暴れてほしい気がしないでもない。彼女が最後に下した決断については、読者一人ひとりの意見・見方が分かれるところだろう。それだけに、いや、だからこそ面白いともいえよう。

※女性セブン2013年11月28日号

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