ことわざ 「釣りも一度は下手になる」に込められた意味とは?

NEWSポストセブン / 2013年11月24日 16時0分

 作家の故・開高健氏は熱心な釣り師としても知られ「釣りとは絶対的矛盾、自己統一である」という言葉を残した。作家の言葉以外にも、釣りにまつわる諺は世界中に古くから存在する。そのなかから「釣りも一度は下手になる」という諺について、高木道郎氏が解説する。

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 釣りをめぐる諺(ことわざ)や箴言(しんげん)、釣り人の名言には思わず腕組みしてしまいそうな奥深いものが多い。釣りの世界には科学では説明のつかない事象がたくさんあり、それを釣り人は諺や箴言という形で伝承してきたとも言える。「釣りも一度は下手になる」というのも考えてみれば不思議な現象かもしれない。

 釣りをはじめた頃は初心者だから入門書を読み、教えられた場所で教えられた通り釣りをするからよく釣れる。それで釣りの世界にハマってしまうのだが、何度も入れ食いを経験すると自分が上手くなったと錯覚し、周囲のベテランのアドバイスを聞かず、自分が狙いをつけた場所とポイントで、自分が工夫した道具や仕掛けを使って釣りたくなる。

 そのとたん、急に魚が釣れなくなり、工夫すればするほど魚がそっぽを向く。これが「釣りも一度は下手になる」状態で、壁にぶち当たった釣り人が初心に戻り、教わった基本を思い出すと釣果は復活し、また天狗になって独自路線へ走って「下手になる」。

 釣り人はそうやって一人前の釣り師になるが、最初に入れ食いを堪能させた師匠の狙いもここにある。喜ばせ、落胆させ、自力で釣れるようになったときは、どっぷり釣りの世界に浸って抜け出せない。「一度は」という条件が曲者だったのである。

「不器用の釣り上手」という言葉もある。不器用者はコツコツと基本を覚えるから覚えは遅くても覚えた基本は忘れない。だから頑張れば名人にもなれるわけだが、本当は釣れずに嫌気がさしはじめた不器用な人間を励ます言葉だろう。

「釣れぬ魚釣り明日来い」と放り出したいのに、「釣れる日、釣れない日」はだれにでもあるから練習のつもりで竿を出せばいい、などと励ます。私もそんな言葉を真に受けてここまで来てしまった。

■高木道郎(たかぎ・みちろう):1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。

※週刊ポスト2013年11月29日号

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