【著者に訊け】柚木麻子 新作『その手をにぎりたい』を語る

NEWSポストセブン / 2014年2月5日 16時0分

【著者に訊け】柚木麻子氏/『その手をにぎりたい』/小学館/1365円

 読むと無性に鮨が食べたくなる、「鮨小説」である。

「それは嬉しいです。私もお鮨は大好きなんですけど、普段行くのはスシローとか銚子丸。江戸前が何かも知らなかった〈青子〉と同様、一からの勉強でした」

 それでよくぞここまでと感心するほど、鮨屋特有のキリリと張りつめた空気や洗練の技を、柚木麻子氏は『その手をにぎりたい』に見事再現する。舞台は1983年から92年にかけての東京。バブル前夜に上京し、銀座の高級店〈すし静〉で若手職人〈一ノ瀬〉の〈手〉に魅せられた青子の社会的青春と、恋を、本書は描く。

 一ノ瀬の握る〈ヅケ〉に始まった彼女の恋は、常に白木のカウンターを挟んだ一方通行だ。が、〈座るだけで三万〉の超高級店に通うために相応の所作や知識を学び、不動産会社で出世もした。肉体関係など介在するはずもない関係がこうも官能的な理由……それは、2人の手と手がやり取りする鮨と「カネ」にあった?

 柚木麻子はバブル世代ではない。なのになぜバブルを書きたがるのかと、以前某作家氏がもらした問いをそのままぶつけてみた。

「あ、窪美澄さんでしょ? 窪さんにはバブルの話をよく聞くし、林真理子さんの本も好きで読むんですが、当時の浮かれっぷりに、知らないからこそ憧れがあるんですね。今は『置かれた場所で咲きなさい』とか、背伸びをしないのがイケてる風に言うでしょ? 私は置かれた場所では頑として咲きたがらない香川照之さんとか、手に入らないものを手に入れようとしてもがく人の方が、実生活は等身大のクセに、好きなんです(笑い)」

 その最たるものが片恋だ。デビュー以来、女同士の関係や友情の暗部を身も蓋もないほど活写してきた柚木氏は「男と女を真正面から描いたのは初めてかも」と言い、その関係がカウンター越しというのも面白い。

「そもそもこのタイトルは、『すし静』みたいに握ったお鮨を直接手に載せてくれるお店が浅草にあるのを、たまたまテレビで見て閃いたんです。握っちゃいけないその手を握りたいって!

 ただ精神的に結ばれていれば肉体的接触は要らないという人って私、信用しないんですよ。ジャニーズの追っかけはしても抱かれたくはないとか、妻と心では繋がってるなんて絶対ウソ(笑い)。現実的な欲望と地続きじゃない恋なんてあり得ないと思うので、一ノ瀬と手くらいは触れさせよう、そのかわり肉体関係はヨソで済ませようと(笑い)」

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