中学生指摘の『走れメロス』の矛盾 評論家が更なる矛盾指摘

NEWSポストセブン / 2014年2月24日 7時0分

 まっさらな原稿の上に、ペン一本で新たな世界を次々と生み出してきた日本の文豪たち。一方で執筆に熱中するあまり、時には当初の設定を忘れたり、現実離れした数字を書き込んでしまったりと、致命的なミスを犯すことも。いざ冷静に読んでみると、日本文学にはツッコミどころが満載なのだ。
 
 太宰治の名作『走れメロス』。実際にメロスが“いかに頑張って走ったか”を検証した、愛知教育大附属岡崎中学の2年生、村田一真君のレポートが、話題を呼んでいる。この作品は、理数教育研究所主催のコンクールで最優秀賞に輝いたものだ。
 
 邪智暴虐の王の暗殺を企てて王城に侵入し、衛兵に捕らえられたメロスは、妹の結婚式に出席するために、親友セリヌンティウスを人質にして3日間の猶予をもらう。そして親友との約束を果たすために死力を尽くして走り続け、約束の3日後の日没の寸前に王城に戻ってくる──簡単にいうと、『走れメロス』はこんなストーリーなのだが、この話の矛盾を村田君は理知的に指摘する。
 
 村田君のレポートでは、《初夏満天の星の深夜出発》との記述から、メロスが深夜0時に出発したと仮定。《一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村に到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた》とあるので、夜通し走って午前10時に到着したものと仮定した。
 
 すると、メロスは村までの10里=約39キロの道のりを行くのに10時間かかり、平均時速は推定約3.9キロということになる。村田君は一般男性のフルマラソンの平均タイムが4時間30分で、平均時速が約9キロであることを引き合いに出し、《一般男性の歩行速度は4キロなのでメロスは往路は歩いたことがわかります》と結論づけた。いわれてみればなるほど、である。

 文芸評論家の末國善己氏は、そもそもこの『走れメロス』には矛盾点が多いと指摘する。
 
「村に帰り着いたメロスはすぐに妹の結婚式を挙げようとしますが、《婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ》と一度断わられる。これは明らかに、《結婚式も間近か》《メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ》という冒頭の記述と矛盾しています」(末國氏)
 
 メロスは妹の結婚式の日取りを間違えていたのか、それともよっぽどせっかちだったのか。セリヌンティウスを人質にする約束を本人の承諾のないうちに王と結び、しかも、
 
《濁流を泳ぎきり、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い》
 
 と、自分で自分を「勇者」と呼ぶあつかましさ。同様に「韋駄天」を自称しているが、実は早歩き程度の速さだったとは……。
 
 物語のラストではほぼ全裸の状態となり、《ひどく赤面した》メロス。しかし、なりふり構わない全力疾走でならともかく、早歩き程度で全裸状態になっているとあれば、もはや不審者とそう変わらない。“武勇伝”の真実が暴かれ、メロスは再び赤面していることだろう──。

※週刊ポスト2014年3月7日号

NEWSポストセブン

トピックスRSS

ランキング