杉村春子に「あんたの芝居は借り物」と指摘された加藤武
NEWSポストセブン / 2014年3月9日 16時0分
俳優の加藤武といえば、金田一耕助の映画シリーズで「よし! 分かった!」と大声で叫ぶ刑事役や、映画『釣りバカ日誌』での鈴木建設秋山専務など、管理職の役柄でおなじみだろう。文学座に所属し、84歳の今も現役で演じ続ける加藤の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一がつづる。
* * *
加藤武は麻布中学時代に太平洋戦争の敗戦を迎えている。小沢昭一・フランキー堺・仲谷昇といった、後に同じく俳優となる同級生たちがいた。早稲田大学に進学後も小沢の他に今村昌平・北村和夫らが同級生におり、黄金世代といえる。
演出部しか募集はなかったため、加藤は俳優ではなく裏方として文学座に入る。文学座には小津安二郎監督作品などで知られる大女優・杉村春子がいた。
「入ったはいいが、肉体労働ばかりだった。それをやりながら舞台袖から芝居を観ていた。セリフの喋り方とか、体の動かし方とか、全く教育を受けていなかった。それでも俳優をやりたいと意思表示をしていたら、やっと役を与えられるようになった。よその劇団の芝居や歌舞伎を観て、その真似ばかりしていた。酷い時は現代劇なのに歌舞伎のイメージでやったり。
そんな時、杉村さんにピシッと言われた。『あんたの芝居は全て借り物』って。ショックだった。その後も杉村さんにはよく怒られた。それが核心を突いている。あの人は役を、自然に見事に演じている。私にはあれができないんだ。どうしても気負いが見えてしまう。
杉村さんは、迷っていると、すっと手を出してくれる。そんな人だった。
特に言われたのは声のこと。声量があるだけじゃ駄目なんだ。『大事なのは大きい声を出しても、しっかり発音するということ』と言われた。『小さい声で言っても声が通るように』とも。
セリフは覚えてただ喋るのでは、だめだ。役の言葉になるまで何度も喋りこまないといけない。柔軟に喋ると説得力が出てくる。それには、相当に台本を読み込まないとね。
若い頃は二、三日で覚えられたセリフが今は一か月かかる。普段喋っている時は、誰でも身振り手振りも交えながら喋っている。それがセリフとなると一面的な喋り方しかできない。
芝居でも自然に身振り手振りを交えてセリフを言うために、普段からとにかく体を動かすことを心がけている」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年3月14日号
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
イッセー尾形 一度はやめた一人芝居を再開した理由
NEWSポストセブン / 2019年12月6日 16時0分
-
イッセー尾形 演じる手がかりの「見つからなさ」も喜びに
NEWSポストセブン / 2019年11月30日 16時0分
-
一人芝居の名手・イッセー尾形、二人以上だとどう感じるのか
NEWSポストセブン / 2019年11月23日 16時0分
-
イッセー尾形 「役作りの人間観察はしない」理由
NEWSポストセブン / 2019年11月16日 16時0分
-
映画監督「北野武」はいかにして生まれたか
文春オンライン / 2019年11月9日 11時0分
ランキング
-
1NHK桑子アナ「おやじキラー」度が加速!? 人気ランキングで「復活ののろし」
J-CASTニュース / 2019年12月6日 16時57分
-
2竹内まりやが「絶対出なかった」NHK紅白歌合戦に初出場する切実な家庭内事情
日刊サイゾー / 2019年12月5日 12時12分
-
3【エンタがビタミン♪】NGT48荻野由佳『ケンミンSHOW』登場に賛否の声「二つの意味で秘密じゃん」
TechinsightJapan / 2019年12月6日 14時50分
-
4ガッキー、インスタやらない理由に反響
シネマトゥデイ 映画情報 / 2019年12月6日 17時35分
-
5神田沙也加に降りかかる「ジャニタレに手を出した」ことへの制裁
週刊女性PRIME / 2019年12月6日 21時20分