健康基準範囲論争 厚労省と財務省で立場が分かれている理由

NEWSポストセブン / 2014年7月5日 7時0分

 近年、血圧130mmHg以上は病気としている現在の基準値は厳しすぎるのではないかとの声が上がり、今年4月に日本人間ドック学会が「血圧は上が147まで」とした新基準範囲を発表したところ、大論争が巻き起こっている。とくに基準厳格化で市場規模が1兆円以上増大したといわれる製薬業界は必死だ。

「厳格基準維持派」とは逆に、人間ドック学会による基準緩和の動きを“歓迎”する論陣を張ったのが読売新聞だった。

 5月6日には〈健診の基準緩和 薬剤費の削減につながるか〉と題した社説を掲載。〈新基準が適用されれば、「異常」と判定される人は減るだろう〉〈過剰な治療が、薬剤費の無駄遣いを招いてきた〉と、人間ドック学会の基準範囲を高く評価した。基準を緩和して病人を「減らそう」という主張だ。こちらも誰の考えを代弁しているか理解しなくてはならない。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。

「サラリーマンが加入する健康保険組合は財政が火の車で医療費をなんとか抑制したい。今回、人間ドック学会と共同で研究を行なった健保連はその全国組織です。基準値を緩和して“病人”を減らし、医療費を抑える流れを作るのが狙いだと考えられます」

 国も年間1兆円ペースで増え続ける医療費の削減を急務とする。今回の基準範囲を策定した調査研究小委員会には、厚労省OB(元近畿厚生局長)の健康保険組合連合会参与がメンバーとして名を連ねる。そのことから「厚労省も病人を減らしたい基準緩和派」とする見方があるが、実態はもう少し複雑だ。東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一氏(大櫛医学情報研究所所長)の説明。

「厚労省は表向きは増え続ける医療費を何とかしたいと言っていますが、実際は予算を増やすことが権限の拡大、天下り先の確保につながるから本気ではない。厚労省が病気を予防し、医療費削減につながるとして始めた『特定健診(通称・メタボ健診)』は、基準値を厳しくしたため逆に医療費を加速度的に増加させた」

 厚労省は1996年に製薬会社への天下り自粛を掲げたが、2010年時点でも再就職者は29名おり、自粛について「改めて徹底をはかる」という文書を公表した。10年以上かけても関係が絶てないほど深いつながりがあるのだ。厚労省本体は今回の人間ドック学会の基準範囲についてダンマリを決め込んでおり、むしろ「隠れ厳格基準維持派」であると考えられる。

 医療費削減に熱心なのは財務省とそのレクを受けた時の政権で、血圧論争の最中の4月末にも財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で医療費などの増加を放置すれば国の債務残高はGDPの6倍にまで膨れあがるとの推計が発表された。

 つまり消費増税から集団的自衛権まで安倍政権に寄り添う論調が目立つ読売新聞は、ここでも「国民の健康よりも医療費削減」という権力側のロジックに寄っていることが透けて見えるのだ。

※SAPIO2014年7月号

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