空に舞い落ちる超スローカーブ 「野球は楽しい」が源だった

NEWSポストセブン / 2014年8月20日 7時0分

 球速はおよそ50キロちょっとという。南北海道代表・東海大四のエース西嶋亮太投手のスローカーブは話題を呼んだ。あの球の「意味」を、フリーライターの神田憲行氏が取材した。

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 2回戦で敗れたとはいえ、東海大四の西嶋亮太投手の投球は長くファンの記憶に刻まれるに違いない。初戦の九州国際大付属校戦で披露した超スローカーブは、良くも悪くも話題を呼んだ。スポーツ紙の報道によると、学校に「相手を侮辱しているのではないか」という電話まであったそうだ。しかし“渦中”の西嶋投手は気にしていなかった。日下部憲和部長は、

「とくに西嶋になにもアドバイスしていません。話題になったときに本人に『お前なんか気にしてるか』と聞いたら、『いいえ』って言ってましたから」

 大脇英徳監督も「いろいろ言われて気にするタイプなら、最初からあんな球投げてませんよ」と笑う。

 雑音をシャットアウトできたのは、超スローカーブが相手を侮辱した球ではないことを、なにより本人が知っていたからだ。西嶋投手がこの球を練習し始めたのは昨秋から。

「球種が少なくてピッチングが単調になりがちだったので、緩急をつけるために最初は遊びで投げてみたんです。それが意外といけるんじゃないかと思い、ちゃんと投げられるようになるまで毎日1時間くらい練習しました。僕が持っている球種の中でいちばん、投げるのが難しい球です」

 たしかにあの球をよく見てみればわかるが、投げられた球は高く弧を描いたあと座った捕手の元に正確に落ちている。たんなる思いつきだけで投げられるわけがない。ましてや相手を侮辱するために毎日1時間も練習するわけがない。ちなみにメディアによっては「超スローボール」と形容するが、「いえ、カーブの握りで(カーブを投げるときのように)抜いて投げているので、超スローカーブです」と訂正するところからも、この球に賭ける本人の誇りが感じられる。身長168センチ、体重59キロしかない小柄な投手が智恵と工夫と努力で、磨きに磨いてきた一球なのだ。

 ライトを守る高田渉主将は、外野からもよくわかるぐらい高く上がる超スローカーブが出ると、

「ああ、あいつ今日もテンポ良く投げているんだなあとわかります」

 と笑みを漏らした。

 それにしても私にはわからない点がひとつある。西嶋投手はコントロールは確かに非凡なものがあるが、ストレートの球速は通常で130キロ台中盤、スライダー、スローカーブ、チェンジアップも失礼ながら目を見張るほどのキレがあるわけでもない。前述したように身体も小さいから威圧感があるわけでもない。それが延長戦を含む2試合19イニングで自責点1、奪三振20という素晴らしい記録をなぜ残せたのか。

 大脇監督に西嶋投手の「投手としての美質」を訊ねると、「うん」と頷いて、「絶対に打たれまいという強い気持ちと」続けた言葉に、私は全てを了解した。

「野球を始めたばかりの子どものころに持ったであろう、『野球は楽しい』という気持ちを今だに失っていないことです」

 だから遊び半分で投げた超スローカーブを、毎日必死に練習して甲子園に持って来られたのだ。青い空と白い雲を背景に舞い上がった白球は、打者を幻惑し、ファンを魅了し、味方を鼓舞し、そしていま野球を始めたばかりの少年たちに「甲子園は楽しい」と伝えてくれたのだ。

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