進行性がんで半身まひ パチンコのため訓練し杖で歩行可能に

NEWSポストセブン / 2014年9月26日 16時0分

 パチンコや競馬などのギャンブル、インターネット、アルコールなど様々なものへの依存症患者が増えていると報じられている。ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、最新刊『1%の力』(河出書房新社)でつづったエピソードから、好きなことを思い切り楽しみながら依存症にならず、限られた人生を楽しく生きたパチンコ好きな男性の例を紹介する。

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 9月17日に『1%の力』(河出書房新社)という新刊を上梓した。その中に次のような話を書いた。

 4年前、ある女性が男の子を産んだ。文字通り幸せの絶頂で、子どもが2か月になろうとしていたとき、夫の胃と肺に進行性のがんが見つかった。28歳の妻は、子育てをしながら愛する夫のために徹底的に尽くそうと考えた。

 ところが進行性のがんを封じ込めることはできず、肺から脳に転移し、右半身まひを発症する。嚥下障害にもなり、食道に穴を開け、そこから管で栄養を摂取するようになっていった。

 当の夫はずいぶんとやんちゃな人だった。病院でも新聞を読みながら競艇の舟券を妻に買いに行かせた。妻が「何かしてほしいことがある?」と聞くと、「家に帰りたい。一緒にいてくれたらそれでええ」と夫は返した。

 病院からは「こんなに重病の人が家で生活できるわけがない」と引き留められたが、最終的には夫がしたいようにさせた。

「暇やからパチンコがしたいなあ」と夫が言い出した。妻は車椅子で連れ出そうと考えていた。しかし夫は「パチンコのために」と言い出し、片方にまひがあるにもかかわらず根性で猛訓練をし、杖をついて歩けるようにまでなった。

 やりたいことをやろうとするとき、人間には不思議な力が湧いてくる。時折襲ってくる激痛には、食道ろうから痛み止めを入れてパチンコをやっていた。

 だが、夫にはある役目があった。息子を保育園まで送って行くこと。朝早くに家を出てパチンコ店の開店前に子どもと並び、息子にくじを引いてもらっていい台を当てる。その後、保育園に連れて行き、また帰ってパチンコをした。好きなことをしていると、脳内麻薬のエンドルフィンが出て「痛みを忘れていた。好きなことができなければ人生は面白くない」と夫は喜んだ。そして暗いことは何一つ言わなかった。そして妻に感謝した。

 再入院が決まった。

 入院までの3日間、またパチンコをやりに行った。妻が心配でパチンコ屋にいる夫をのぞきに行くと、夫はパチンコ台の前でドヤ顔をした。彼の周りには、後ろを通れないほどのパチンコ玉の箱が積まれていた。なんと3日間連戦連勝。奇跡のようなお話が現実に起きたのである。

 パチンコに精を出しながらも夫は、子どもの保育園の送り迎えは必ず自分でこなしていた。どんなに辛くても、暗い顔をしない人間がいることを息子に覚え込ませた。誰かの為に生きるという役目を果たしたから、彼はなんとか人生をやり遂げたのである。最後まで自分を見失なわず、その4年後、彼は亡くなった。

 好きなことをしてドーパミンを出して楽しんでいい。だが、そこに誰かのために何かをすることも組み合わせて、依存症にならずに楽しく生きていきたいものである。

※週刊ポスト2014年10月3日号

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