春画発掘・普及に尽力した研究者の死 大英博物館も冥福祈る

NEWSポストセブン / 2014年10月24日 16時0分

 春画の発掘と普及に尽力した孤高の研究者、白倉敬彦(しらくらよしひこ)氏がこの世を去ったのは10月4日だった。今春に小細胞肺がんが発覚し、闘病生活を続けていたが、無念にも力尽きた。享年75。

 白倉氏は本誌『週刊ポスト』人気シリーズ「江戸のSEX」で監修の役割を務め、江戸時代のエロスについてわかりやすく解説した。8月15・22日号の「『春画』と『エロ漫画』の系譜」にも病床から解説コメントを寄せてくれた。

 国際日本文化研究センターの早川聞多教授は白倉氏の功績をこう語る。

「昨年10月3日から大英博物館で開催され、世界的な話題となった『春画展』は、白倉さんの研究と尽力がなければ実現できなかった」

 国際浮世絵学会会長で、岡田美術館館長の小林忠氏は、白倉氏の研究は日本よりもむしろ海外で高く評価されていたと証言する。

「白倉さんの訃報を、大英博物館の主任学芸員ティモシー・クラーク氏に知らせたら、すぐ『大変に残念だ。ご冥福を祈る』と心のこもった返信がありました」

 白倉氏は「春画=ポルノではなく、浮世絵の重要な一ジャンル」と説き、「純粋な芸術として評価すべき」、「江戸の庶民文化を現代に伝える貴重な資料」だと主張した。その見識が日本よりも先に欧米で受け入れられたのは、白倉氏にとってばかりか、我が国の美術史においても皮肉なことである。

 法政大学総長で江戸文化史研究の第一人者である田中優子氏も、白倉氏の死を惜しむ。

「春画がアカデミックな意味で国際的な注目を集めたのが、白倉氏の企画で1994年に開催された米インディアナ大学でのシンポジウムでした。海外の浮世絵研究家たちに、『日本の春画研究はミスター・シラクラが下支えしている』は共通認識になっています」

 田中総長が1999年に『張形 江戸をんなの性』(河出書房新社)を刊行する際、資料蒐集はもちろん、細かな教示を与えたのが他ならぬ白倉氏だった。

「私は白倉氏との共著として出版するつもりでしたが、氏は固辞されました」

 そのとき白倉氏は穏やかな口調でこういったという。

「江戸の女性のセックス事情に、女性研究者が真正面からぶつかることこそが、日本の文化史にとって意義あることなのです」

 それでもまだ日本における春画の位置づけは不当に低いと考える専門家は多い。かつては美術館がコレクションから外すだけでなく、古美術商ですら売買を渋った時代もあった。そんな中、白倉氏が全国を丹念に回って春画の発掘に心血を注いだことで、その系譜や技法が体系的に研究され、芸術性が理解されていった点は後世に残る偉業だろう。

 たびたび春画特集号を発刊し、白倉氏と仕事を共にした平凡社「別冊太陽」の竹内清乃編集長はいう。

「白倉さんは『春画は堂々と世に問えばいい。愉しいものは必ず売れるよ』とおっしゃっていました。日本人は明治維新で西欧のキリスト教的倫理観を受け入れ、せっかく庶民に浸透していた春画文化を封印してしまいました。白倉さんはパンドラの箱を開け、春画を現代に解放した人物なのです」

※週刊ポスト2014年10月31日

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