台湾の慰安婦問題は反日だけでなく人権問題等様々な解釈

NEWSポストセブン / 2016年5月1日 7時0分

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慰安婦記念館。簡素な外観からは、つましい印象を受ける

 慰安婦問題は日本を悩ませる大きな外患で、中国や韓国で沸き起こる反日感情の素地でもある。一方、過去に日本の植民地支配を受けた台湾も、中韓と同じ文脈で語られることが少なくない。だが、ノンフィクションライター・安田峰俊氏の現地取材からは、「反日」だけでは説明できない側面も見えてくる。

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 慰安婦問題について、台湾の状況は独特だ。

 今年3月8日、歴史的な街並みが広がる台北市内の迪化街で、「阿媽家(おばあちゃんの家)」という記念館の除幕式が実施された。通称は「慰安婦記念館」。式典には馬英九総統のほか、存命する台湾人元慰安婦も出席し、日本政府への謝罪と賠償を訴えた。

 設立母体である婦女救援基金会(婦援会)の調査では、「被害」の証言が確認された台湾人元慰安婦は59人(うち現時点での生存者は3人)。昨年12月に日韓間で慰安婦問題の決着が図られたこともあり、台湾についても解決を訴えている。

 だが、婦援会の康淑華執行長は活動方針をこう話す。

「慰安婦問題は『反日』を主張するための政治問題か、それとも人権やジェンダーの問題か。様々な解釈がありますが、私たちの認識は後者です。台湾人として、自国の女性が過去に苦しい目に遭った事実への名誉の回復を求めています。賠償よりも日本政府から彼女たちへの謝罪が欲しい」

 実のところ、婦援会は慰安婦問題の追及だけをおこなう組織ではない。DVやリベンジポルノ被害者の救援、性的人身売買の解決など、女性の権利擁護活動を手広くおこなっている人権団体だ。

 前出の「阿媽家」についても、慰安婦に関連する展示は全体面積の半分ほど。残りは女性問題のワークショップ会場や困窮女性の自立支援の場として使われる予定だという。

「慰安婦に限らず、私たちは一切の売春行為や戦時性暴力に反対しています。例えばIS(イスラム国)の性奴隷制度も、韓国軍によるベトナム戦争中のレイプ問題も、過去の中華民国軍の『軍中楽園』(慰安婦制度)も、すべて問題だと考えています」(康氏)

 やや極端だが、ブレない姿勢であることは間違いない。

 ちなみに婦援会による慰安婦関連の主張は、被害者側の証言を重視しすぎて客観性に欠けた部分もあり、日本側にそのまま受け入れられるとは考えがたい。

 だが、少なくとも会の目的が、特定の政治的意図にもとづく「反日」活動ではないことは確かだろう。

「従来、日本国内では慰安婦問題に積極的な社民党と接触してきましたが、自民党や共産党とも話をしたい。台湾でも、私たちは国民党か民進党かを問わず女性問題を訴えていますからね」(康氏)

 尖閣問題や慰安婦問題は、過去の対中・対韓関係のなかであまりにも政治化され続けてきた。ゆえに日本人の間では「反日」意識の象徴のような胡散臭いイメージを持つ人も多い。

 だが、そうした先入観にとらわれると、台湾におけるこれらの問題は見えてこない。5月の蔡英文政権の発足で、日本との距離感がより縮まることが期待される隣国・台湾。柔軟な目で眺めてゆきたいものである。

●やすだ・みねとし/1982年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。主な著書に『知中論』『境界の民』など。公式ツイッターアカウントは「@YSD0118」。

※SAPIO2016年5月号

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