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安楽死選んだ女性 最後の16時間の一部に密着

NEWSポストセブン / 2016年4月30日 16時0分

「私たちの国は、世界的な福祉国家なのに、人間の死については、議論にもならないわ。宗教色の濃い国ではないですから、倫理的な問題でもないはず」

 モルヒネを使用していたため、取材時の痛みは「10段階に分けると3」だという。しかし、翌朝、ユーブリンクは、「あなたが帰ってから朝まで痛みがあって眠れなかった」と明かしてくれた。この時のブンヌの状態は、20mを歩行することさえやっとで、食後は吐き気と腹痛に悩まされていたのだった。彼女の病状に鈍感だった私は、用意していた問いを一つずつ訊いていった。

 明日、本当に死んでもいいんですか? 私の質問を聞き終える前に、ブンヌは躊躇(ちゅうちょ)せず、きっぱりと答えた。

「もちろんよ。私自身の死ですから。なぜ、あと2か月も耐え難い痛みを我慢して生きなければならないの。耐え抜くことによる報酬でもあるのかしら」

 ブンヌが、プライシック女医の運営するライフサークルのメンバーになったのは、2015年11月で、その3か月後には、こうして希望が実現した。

「とにかく、この痛みから早く逃れたい。痛みが私の体を侵食していくの。元医師として、どんな結末が待っているのか、良く分かっているつもりよ」

 元医師として、いや、この時は患者として、彼女は訴えたいことがあった。

「患者の痛みを和らげる緩和ケアが各国で主流になっていますが、私の意見では、まったく無意味だと思う。それは単なる嘘でしかない。この痛みを和らげることなんてできませんから。特に私の癌は、とても不愉快な痛みです」

 時刻は、午後5時半を回った頃だった。鮮明なオレンジ、赤、紫の空が窓辺に輝く。私はブンヌに訊くべきことがあった。これが多くの場合、安楽死や自殺幇助を妨げる要因に繋がることを、先週旅立った英国人老婦から学んだからだ。子供はいますか?

「ええ、43歳の長女と、40歳の長男がいます」

 このホテルに?

「いいえ」

 スウェーデンに残っている?

「はい」

 ブンヌは、何も付け加えることなく、イエスかノーの返事をした。親子関係に、やや冷たい空気が流れている気がした。英国人老婦は、「子供がいたら違った決断をしていたかもしれない」と話していたが、ブンヌはどうなのか。

「私は大丈夫よ。子供たちもね」

 彼女は、あまりにも冷静だった。

「2人には、すでにスウェーデンで別れを告げてきました。この決定は、私の個人的なものだと思っているんです。死ぬ私の姿を子供たちに見てほしくはない。夫だけに、私の最期の顔を見つめてもらいたいのです」

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