緊急時の食糧支援 生活習慣病リスクを視野に入れたものへ

NEWSポストセブン / 2016年4月25日 7時0分

 イラクでの難民支援活動を続けている鎌田實医師は、難民と東日本大震災での被災者には共通の健康問題があると指摘する。共通する原因と対策方法について、鎌田医師が解説する。こうした指摘は熊本の地震でも当てはまる部分はあることだろう。

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 イラク北部のクルド自治区の主都アルビル。その町に、コンテナを利用した急ごしらえの診療所がある。マルチシムーニ教会クリニックなど4つの診療所だ。

 2014年6月、イラク第二の都市モスルが過激派組織ISに制圧。このとき、数万人の住民がアルビルに流れ込んだ。一時は、教会や学校のグラウンドに野宿する人たちであふれかえった。

 命がけで逃げてきて、体調を崩す避難民も少なくない。この人たちを何とか助けたい、とイラクのドクターからSOSが入った。

 ぼくが代表を務めるNPO日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)は、イラクの小児がんや白血病の子どもたちの支援に12年間、取り組んできた。SOSにこたえ、急きょ、アルビルの町に4か所、診療所を開設する支援を開始した。

 診療に欠かせない薬や医療機器は、日本の外務省の助成を得ながら寄付を募り、年間1600万円かけて供給するようにした。

 問題は、人手だった。クルドの医師や看護師たちは手いっぱいで支援に入れない。そのとき、自ら手を挙げたのが、モスルから逃げてきた避難民の医師や看護師、薬剤師だった。

「私は医者だ。人々の命を救わなければ」

 産婦人科のドクター・ハナは、モスルからアルビルにたどり着いたとき、小さなテントの中で、熱を出して死にかけている子どもを見た。自分が医師であることを思い出した瞬間だったという。

 かつて外国の資本が投入され、「第二のドバイ」と言われたアルビルは、建設ラッシュの途中で、工事が中断されたままのビルが目立つありさまだ。吹きさらしの建設中のビルは、いまや、難民や避難民たちの仮の住処となっていた。

 マルチシムーニ教会クリニックのような診療所は、そうした都市難民たちの命と健康を守る身近な拠点となった。

 都市難民が抱える健康問題はさまざまだ。最も心配されるのは、大きなストレスと、糖質に偏りがちな食生活、運動不足などによって引き起こされる生活習慣病だ。ドクター・ハナの7歳の息子は、糖尿病を発症した。小児に多い遺伝性の糖尿病ではなく、ストレスや生活習慣で発病したようだ。

 東日本大震災でも、南相馬市と相馬市で大規模な調査が行なわれ、糖尿病の発生率が6割増加していることがわかった。

 イラクでの食糧配給は小麦や砂糖、油が多く、糖質偏重になりやすい。日本でも、緊急時の食糧支援にはおにぎりやパンなどが多い。緊急時だから栄養バランスなどは二の次になるのかもしれないが、今後は、偏った食生活と運動不足、ストレスが生活習慣病のリスクを上げることも視野に入れ、支援を考えていく必要がある。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。

※週刊ポスト2016年5月6・13日号

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