「お客様のお言葉」に現場萎縮 広告業界「珍クレーム」伝説

NEWSポストセブン / 2016年11月21日 7時0分

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広告業界はクレームのリスクに戦々恐々(写真:アフロ)

 資生堂の大人女性向けブランド「INTEGRATE」のCMで「25歳からは女の子じゃない」「もうチヤホヤされない」といった女子トークのシーンが一部の人々から「女性差別」などと批判され、放送中止となった。

 同様のケースはここ数年間で何度もある。最近では、水着姿の少女が「養って……」と切ない表情で訴える鹿児島県志布志市のふるさと納税PR動画に批判が殺到。動画は、ふるさと納税の特典である鰻を擬人化したものだったが、ネットで「児童ポルノを連想させる」「女性蔑視」と大炎上し配信停止に追い込まれた。他にも、萌え系巨乳アニメキャラをPRに使った自治体のポスターが「無駄に性欲を喚起する」などとして、掲出中止に追い込まれた例もある。

 資生堂の件はさておき、他はクレームが寄せられるニオイはするだけに、担当者はもう少し炎上リスクを察知すべきだったかもしれない。だが、こうした状況の中、広告制作の現場は萎縮している。広告代理店の営業担当者が語る。

「不妊治療に関連した商品の競合プレゼンをしたところ、クライアントから『不妊に悩む女性は描かないで。子供を産みたくても産めない人を傷つけるかもしれないから』という条件が付けられ表現に難儀しました」

 確かに難題である。広告は本来ユーザーに「伝える」ための表現を考えるものだったはずだが、今は「クレームをつけられない」ことが最重要課題になっている。広告代理店では、法的制約への抵触を判断する法務部署だけでなく、リスク対応の専門部署にも確認をするよう求められているそうだ。

 他にも広告業界に知られる珍伝説は色々ある。ソフトバンクの人気CM「白戸家の人々」は、犬が父親で息子が黒人男性のダンテ・カーヴァー、娘が上戸彩という設定だ。すると、「黒人は犬から生まれたと言いたいのか?」というクレームが日本人から来たという。また、とある一般消費財のCMで、髭面のラグビー選手二人が肩を組む演出を中心に考えたところ、「LGBT(*)団体からクレームが来るかもしれない」とお蔵入りになった。

【*ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーなど、性的少数者の総称。】

 こうした人種やジェンダーに関するものは主にリベラル派からのクレームだが、保守派からも「女子が『ら抜き言葉』や『やばい』を使うと『言葉の乱れを助長するのか』というクレームが来る」(コピーライター)と、もはや全方位的クレーム殺到状況なのだ。

 とはいってもクレーマーはいつの時代にもいる。私が新入社員時代に先輩から聞いた珍伝説として、1990年代にハウス「ハッシュドビーフ」のCMで流れた「あらこんなところ(家庭の冷蔵庫)に牛肉が」という歌に、「冷蔵庫に放置された牛肉を使うのは不衛生」との意見が寄せられた。その後、CMの舞台はスーパーの精肉売り場に変わり、歌詞は「あらお久しぶりね牛肉さん」になったというが、これにはクレーマーを皮肉るかのようなメーカー側の妙な意地を感じたものである。

◆文/中川淳一郎(ネット編集者)

【PROFILE】1973年生まれ。東京都出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。2001年に退社後、ネット編集者、ライター、PRプランナーとして活動。近著『バカざんまい』(新潮新書)など著書多数。

※SAPIO2016年12月号

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